水稲の有機栽培・減農薬栽培・慣行栽培の比較LCA


[要約]
水稲の有機栽培・減農薬栽培・慣行栽培の環境影響をライフサイクルアセスメントによって事例ベースで比較すると、有機農業の環境影響が必ずしも小さくなく、技術改善によって単収向上が必要なことが示される。

[キーワード]ライフサイクルアセスメント(LCA)、有機栽培、減農薬栽培、地球温暖化、富栄養化

[担当]中央農研・環境影響評価研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8874
[区分]共通基盤・経営、関東東海北陸農業・経営
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
有機農業推進法の成立を契機として有機農業への取り組みが広まりつつある。しかしながら、その環境影響が、慣行栽培や減農薬栽培と比較してどの程度かについては十分な知見がないのが現状である。そこで、水稲を事例にとり、有機栽培・減農薬栽培・慣行栽培の間での環境影響をライフサイクルアセスメント(LCA)によって比較する。

[成果の内容・特徴]
1. 実際の農業経営者(農業生産法人)の取り組みを元に、水稲の有機栽培・減農薬栽培(特別栽培)・慣行栽培を比較した成果である。この有機栽培の特徴は、米ぬか散布および機械による除草が行われていることである(表1)。これは、日本で現在最も取り組みの多い除草方法である。比較は、地球温暖化と富栄養化に関して実施した。環境影響を測る単位(機能単位)は、面積(10a)および生産物(kg)とした。
2. 温室効果ガス排出量を面積当たりで比較すると、多い順で、慣行、有機、減農薬であり、生産物重量当たりで比較すると、有機、慣行、減農薬であった(図1)。面積あたりでも有機の方が減農薬よりも多い理由には、除草用機械の導入が関係している。また、排出量の内訳をみると、メタン(直接排出)がその半分以上を占めている。
3. 富栄養化ポテンシャルを面積当たりで比較すると、多い順で、慣行、減農薬、有機であり、生産物重要当たりで比較すると、慣行、有機、減農薬であった(図2)。環境影響の大半は、リンに由来するものである。
4. 両指標(影響領域)を用いた結果から、以下のことが指摘できる。有機農業の環境影響をより小さくするためには、低投入化(面積当たり環境影響の低下)だけではなく、高産出化(投入一定の下での生産物重量あたり環境影響の低下)が必要である。

[成果の活用面・留意点]
1. 評価範囲は水稲生産までであり、消費や廃棄等は含まない。
2. 機械除草は、有機水稲栽培において現在最も一般的な除草方法であると推定される。
3. 産業連関表による環境負荷原単位データブック(3EID)、日本国温室効果ガスインベントリ報告書等を用いた。
4. 有機農業のLCAについては、林(2008)日本LCA学会誌4(2): 112–118を参照。

[具体的データ]

表1 各栽培体系の概要

図1 温室効果ガス排出量(左:面積当たり、右:生産物重量当たり)

図2 富栄養化ポテンシャル(左:面積当たり、右:生産物重量当たり)

[その他]
研究課題名:環境影響の統合化と環境会計による農業生産活動評価手法の開発
中課題整理番号:214a
予算区分:基盤、交付金プロ(日本型有機農業)、科研費
研究期間:2006〜2009年度
研究担当者:林清忠、佐藤正衛、外園信吾(特別研究員)
発表論文等:Hokazono S. et al. (2009) Agronomy Research 7(s1): 257-262

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