黒毛和種牛の過剰排卵処理における卵胞発育波調整薬剤の効果


[要約]
黒毛和種経産牛で過剰排卵処理を開始する前に、卵胞発育波を調整するための安息香酸エストラジオール製剤を投与すると、回収卵数や正常胚数が増加する。

[キーワード]黒毛和種牛、過剰排卵処理、卵胞発育波、採卵成績

[担当]群馬畜試・吾妻肉牛繁殖センター
[代表連絡先]電話:0279-67-2918
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
牛の過剰排卵処理(以下SOV)時に主席卵胞が存在すると、回収卵数や移植可能胚数を低下させると言われており、効率的にSOVを行うには主席卵胞を消失または退行させて卵胞発育波を調整することが必要である。そこでSOV開始前に、GnRHや安息香酸エストラジオール(以下EB)等を用いて、主席卵胞を除去し卵胞発育波を調整する方法が考えられており、その有効性について当場黒毛和種経産牛延べ925頭の採卵成績をもとに検証する。

[成果の内容・特徴]
1. SOVは2つの方法で行う(図1)。方法Tは主に連続SOVに用い、発情周期にかかわらず腟内留置型黄体ホルモン製剤(以下CIDR)挿入6日後から卵胞刺激ホルモン(以下FSH)を4日間で総量13アーマー漸減投与する。発情確認後、凍結精液ストロー1本を用いて人工授精し、同時に排卵促進剤を投与する。採卵は発情から7日目に子宮還流法により実施する。方法Uは主に分娩後初回SOVに用いるが、方法Tの前処理としてCIDRの1週間留置と除去時にイソジンの子宮内注入を組合わせる。なお、前処理は分娩から30日以降に開始する。
2. 卵胞発育波の調整薬剤は、GnRHを用い酢酸フェルチレリンとして25μgをFSH投与3日前の夕方(約64時間前)に投与する。もしくは、EBとして1mgをFSH投与3日前の朝(約72時間前)に投与する。
3. 方法Tの場合には、EBの投与により回収卵数が有意に多くなり、正常胚数も多くなる傾向にある。しかし回収卵に対する正常胚の割合を示す正常胚率については、EBの投与で若干低くなる傾向にある(表1)。
4. 方法Uの場合には、調整薬剤を投与すると回収卵数および正常胚数が増加する傾向にある(表2)。
5. 以上から、EBの投与は、方法Tで回収卵数の増加に有効である。また方法Uにおいては調整薬剤投与の有効性が推察される。

[成果の活用面・留意点]
1. EB投与により卵胞発育波を調整して回収卵数と正常胚数を増加させることができる。
2. しかしEB投与により正常胚率が低下するので、人工授精の時期や回数および発情時に投与する排卵促進剤などについての検討が必要である。
3. 使用したEB製剤が生産中止となったため、他のEB製剤について有効性の確認が必要である。

[具体的データ]
図1 SOVスケジュール
表1 方法Tによる採卵成績
表2 方法Uによる採卵成績
[その他]
研究課題名:受精卵推進
予算区分:県単
研究期間:2002〜2009年度
研究担当者:堀澤純、加藤聡、宮崎美伯

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