水溶性プルランフィルムを使用したガラス化法で豚胚を保存できる


[要約]
水溶性プルランフィルム上でガラス化した豚胚の加温後の生存率、呼吸量、生存細胞割合は、クライオトップを用いてガラス化した胚と同程度であり、水溶性プルランフィルムは豚胚のガラス化に利用できる。

[キーワード]豚、体内生産胚、ガラス化、生存率、水溶性プルランフィルム

[担当]神奈川畜技セ・畜産工学部
[代表連絡先]電話:046-238-4056
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(中小家畜)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
豚胚移植技術を生産現場で普及するためには、生存性が高く、操作が簡便な超低温保存方法の確立が必要である。本研究では、水溶性プルランフィルム上でガラス化した胚を希釈液とともにストロー内に封入することにより、加温後に胚をストローから取り出すことなく、直接受胚豚に移植することを目指し、プルランフィルム上でガラス化冷却・超低温保存した豚胚の加温後の生存性を調査する。

[成果の内容・特徴]
1. 春機発動前のランドレース種、大ヨークシャー種の供胚豚耳根部にPMSG1,500単位を、更に72時間後にhCG500単位を筋肉内に投与し、hCG投与翌日午後及び翌々日午前中にAIを行い、AI初日を0日目として6日目に外科的に回収した胚盤胞を、プルランフィルム(シルク印刷用 厚さ20μm、(株)林原商事)を接着した器具(図1)を用いてガラス化冷却する。対照区は市販のクライオトップ及びガラス化液、加温液(Cryotop® 、VT101及びVT102, 北里バイオファルマ)を用いてガラス化する。
2. 15%エチレングリコール、15%ジメチルスルホオキシド、0.6Mシュークロース及び20%牛胎仔血清(FBS)を添加したD-PBSをガラス化液(EDS30)に用い、胚を50%濃度のEDS30に4分間平衡後、EDS30に移して1分以内にプルランフィルム上にのせ、液体窒素に浸漬してガラス化冷却する。ガラス化胚は20〜150日間保存した後に、0.6Mシュークロース及び20%FBSを添加したD-PBS液に2分、0.3Mシュークロース及び20%FBS添加D-PBSに2分静置し、20%FBS添加D-PBSで洗浄して加温を行う。
3. 加温後の胚を0.1mMβメルカプトエタノール及び20%FBS添加TCM199で24時間、5%炭酸ガス、飽和水蒸気下で培養したところ、プルランフィルム区の胚の生存率は、79.0%であり、クライオトップ区(70.7%)と有意差はない(表1)。
4. ガラス化冷却30分前と加温30分後の胚の呼吸量を受精卵呼吸量測定装置((株)機能性ペプチド研究所)を用いて測定した後、propidium iodideとHoechst 33342で染色し生存細胞数と総細胞数を計数したところ、両区で加温後の呼吸量の低下は認められず(表2)、総細胞数に対する生存細胞の割合にも差は認められない(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 水溶性プルランフィルム上でガラス化した胚を希釈液とともにストロー内に封入すれば、ストロー内で超急速ガラス化胚が加温できる。
2. 水溶性プルランフィルムは、湿度や温度の変化によって形状が変化することがある。

[具体的データ]
図1 プルランフィルムを接着したステンレス製のガラス化保存器具
表 1  各ガラス化保存法で保存された豚体内生産胚の加温後の生存率
表2 各ガラス化保存法で保存された豚体内生産胚のガラス化保存前、加温後の呼吸量
表3 各ガラス化保存後の胚の細胞数
[その他]
研究課題名:非外科的移植に適する凍結保存方法の検討
予算区分:アグリバイオ
研究期間:2004〜2008年度
研究担当者:坂上信忠、山本禎、仲澤慶紀、秋山清、西田浩司、高木優二(信州大学)

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