イチゴ種子繁殖型品種の育種に適した炭疽病抵抗性の後代検定法


[要約]
発芽15日後以上の自殖実生に炭疽病菌 Glomerella cingulata の胞子懸濁液を噴霧接種し、接種25〜30日後の生存株率を、その親系統の抵抗性評価指標として用いること

[キーワード]イチゴ、種子繁殖、炭疽病抵抗性、Glomerella cingulata、後代検定法

[担当]三重農研・園芸研究課
[代表連絡先]電話:0598-42-6358
[区分]関東東海北陸農業・野菜
[分類]研究・普及

[背景・ねらい]
イチゴ炭疽病は深刻な被害を引き起こす重大病害であり、根本的な対策には抵抗性品種の利用が必要である。特に抵抗性を有した種子繁殖型品種は、親からの子への感染を完全に防ぐことができるため、炭疽病対策に極めて有効な手段になる。品種開発を進めるには、自殖固定系統やF1系統の抵抗性を効率的に評価する必要がある。そこで、従来の実生個体選抜法を発展させ、種子繁殖型品種の育種に適した炭疽病抵抗性の後代検定法を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 炭疽病菌の噴霧接種には、濃度を約5×105個/mlに調整した胞子懸濁液を用い接種後1日程度、気温25℃湿度100%の高湿恒温条件を保って感染を促す。
2. 炭疽病菌接種後の生存株率は、発芽後15日より若い実生では若いほど低くなるが、発芽後15日以上では差がなくなる(図1)。そのため、炭疽病菌の接種には発芽後15日以上経過した実生を供試する。
3. 炭疽病菌接種後の生存株率は9〜20日頃に急激に低下し、20日以後は安定する(図1)。このことから、生存株率の調査時期は、接種20日以後がよく、中でも安定したことが確認できる接種後25〜30日頃が適している。
4. 自殖実生の炭疽病菌接種後生存株率には、その親品種による品種間差がある(図2)。自殖実生の生存株率と栄養繁殖株を用いた親品種の発病指数の間には、有意な相関が認められる(図3)。このことから、自殖実生の炭疽病菌接種後生存株率を、その親品種・系統の抵抗性評価指標として用いることができる。
5. 後代検定に用いて生き残った株を次世代の自殖親にすることによって、系統選抜と個体選抜を並行して効率よく自殖固定を進めることができる。

[成果の活用面・留意点]
1. 実用的方法としては、セルトレーに各セル1粒ずつ播種し供試数として充分な株が発芽した日に発芽株を調査し、その日から15日以上経過した後に菌接種を行い調査対象株のみで生存株率を算出する。
2. 自殖実生の炭疽病接種後生存株率は環境条件によって変化する。抵抗性評価は相対評価として行う必要があり、基準品種を定めておくことが望ましい。
3. 菌接種に関し「発芽後15日」とする基準は閾値であることに注意が必要で、発芽揃いが良い場合、発芽後日数の平均値が閾値に非常に近くなり、わずかな環境条件の影響が強く出現し、生存株率が低くなることがある。発芽揃いが良い場合は、接種を7日程度遅らせる必要がある。
4. 本成果は炭疽病菌Glomerella cingulataについて検討した結果であり、Colletotrichum acutatumによる炭疽病抵抗性の検定に適用できるとは限らない。

[具体的データ]
図1 炭疽病菌胞子懸濁液の接種時における実生の発芽後日数別にみた生存株率の経日変化
図2  イチゴ19品種の自殖実生における炭疽病菌胞子懸濁液接種後の生存株率の比較
図3 イチゴ7品種における親品種の炭疽病発病指数と自殖実生の菌接種後生存株率の相関
[その他]
研究課題名:植物遺伝資源の収集保存と特産園芸品種の開発
予算区分:県単
研究期間:2006〜2007年度
研究担当者:森利樹、北村八祥
発表論文等:森、北村(2010)園芸学研究、9(2):137-141

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