荒茶製造工程における微生物増殖場所


[要約]
荒茶の微生物は主に蒸し葉冷却工程から揉捻工程で付着するもので、製造終了後から翌日の製造開始までの間、製茶機械内部や搬送機上に滞留・付着した含水率の高い茶葉残渣で微生物が増殖し、翌日新たに投入された茶葉に混入していると推測される。

[キーワード]チャ、荒茶、製茶工程、衛生管理

[担当]静岡県農技研(茶研セ)・新商品開発(加工)
[代表連絡先]電話:0548-27-2311
[区分]関東東海北陸農業・茶業
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
荒茶は製造に用いる蒸気や熱風により生葉が殺菌されることや、乾物であるため保存中に細菌が増殖することがないなど、食中毒を引き起こすリスクの比較的低い製品であるといえる。しかしながら、近年ペットボトル飲料の普及や食品原料としての需要など新たな形態で摂取される機会が増加しており、それにともなって受入業者側が原料茶に独自の微生物規格を設定する事例が増えている。そこで、荒茶の細菌数低減のために、製造工程における微生物増殖場所を特定し、管理すべき工程を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 荒茶製造工程における茶葉の水分活性は、生葉から揉捻工程までは0.97Aw以上と高い値を示し、微生物が増殖しやすい環境にある。微生物が増殖するのに必要な最低生育水分活性は大腸菌で0.93Aw、一般的な細菌で0.90Awと言われており、それらに近いもしくは下回る値となる中揉以降の工程では細菌が増殖する可能性は低い(図1)。
2. 水分活性の値から最も微生物が増殖しやすいと考えられる蒸熱工程後の茶葉に大腸菌群を接種して25℃で培養し、作成した茶葉中の細菌の増殖モデルでは、大腸菌群数は培養開始から3時間後、一般生菌数は6時間後から増殖を開始し、48時間で108cfu/g程度まで増殖し、定常状態となる(図2)。
3. 蒸熱後から粗揉後までの工程における茶葉中の細菌数は、一・二番茶及び秋冬番茶期のいずれにおいても、一般生菌、大腸菌群とも稼働直後の菌数が2時間後や4時間後に比べて多い(図3)。
4. 汚染源として細菌が増殖した茶葉残さの混入が想定されることから、ライン稼働直前に葉打ちから揉捻工程までの機械上の茶葉残さを採取し、細菌数を調査したところ、一番茶期における茶葉残さ中の細菌数の平均は、一般生菌数が103〜105cfu/g、大腸菌群数は102〜103cfu/gのオーダーである(図4)。
5. 荒茶製造工程の所要時間は約4時間であり、そのうち水分活性の高い工程は前半の2時間程度であるため、ラインを流れる茶葉中で微生物が増殖する可能性は低いと考えられる。荒茶の細菌汚染は冷却工程以降の二次汚染によって起こることが報告されている(稲垣ら1996)が、製茶機械内部や搬送機上に滞留・付着した茶葉で微生物が増殖し、翌日、新たに投入された茶葉に混入していくことがその要因と推測される。

[成果の活用面・留意点]
1. 荒茶製造工程における細菌数低減のための重要管理点設定の際の基礎資料となる。
2. 冷却から中揉までの各工程及びその間の搬送機中で、茶葉残さが滞留・付着する箇所を確認し、清掃・殺菌することで荒茶の細菌数を低減できる。
3. 荒茶の細菌数は乾燥工程を経て、一般的な飲用方法では食中毒の危険性が極めて低い値となるが、さらに低減を図る際の参考とされたい。

[具体的データ]
図1 各工程取り出し時の茶葉水分活性(二番茶) 図2 茶葉の一般生菌及び大腸菌群数の経時変化
図3 一般生菌増殖箇所の茶葉細菌数経時変化(二番茶) 図4 茶葉残さの一般生菌数(一番茶)

※調査実施場所:図1;茶業研究センター,図3,4;県内荒茶加工施設


[その他]
研究課題名:荒茶製造工程における制菌技術の開発
予算区分:県単
研究期間:2007〜2009年度
研究担当者:宮地裕一郎、藤田理英子(三井農林(株))、餅田薫(三井農林(株))、後藤慶一(三井農林(株))

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