リン酸過剰症が発生したスイートピーハウス土壌の可給態リン酸低減法


[要約]
リン酸過剰により葉身白化症が発生した施設栽培スイートピーで、土壌の可給態リン酸含量を、障害が発生しない程度まで低減させる方法として、塩化第二鉄溶液の散布または浄水汚泥の施用が有効である。

[キーワード]リン酸過剰、スイートピー、葉身白化、塩化第二鉄、浄水汚泥

[担当]神奈川農技セ・農業環境研究部
[代表連絡先]電話:0463-58-0333
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
施設栽培スイートピーの葉身白化症状の原因はリン酸過剰であり、土壌の可給態(トルオーグ)リン酸が300mg/100gを超える圃場で多く発生する(19年度成果情報)。そこで可給態リン酸含量を300mg/100g以下まで低減させる資材を室内試験で検索し、現地でその効果を実証する。

[成果の内容・特徴]
1. 可給態リン酸含量400mg/100gの土壌(褐色低地土)に、リン酸を吸着する効果があると考えられる5種類の資材または試薬を混合し25℃16週間培養したところ、塩化第二鉄、次いで浄水汚泥(浄水場発生土の高分子処理造粒脱水ケーキ)が、可給態リン酸含量を低下させる効果が高い(図1)。
2. 塩化第二鉄および浄水汚泥処理後における、土壌の無機態リン酸の存在形態は、塩化第二鉄処理ではFe態、浄水汚泥処理ではAl態リン酸が増加する(図2)。
3. 可給態リン酸含量を300mg/100gまで低下させるために必要な塩化第二鉄の処理量を実験的に検討したところ、7.5mmol/100gの処理で300mg/100g以下まで下げることが可能である。塩化第二鉄の処理量が増加すると著しいpH低下とEC上昇が起こる(図3)。
4. 可給態リン酸含量が400mg/100gを超える現地スイートピー栽培ハウス(褐色低地土)において、塩化第二鉄1.75%(108mmol/L)溶液を100L/m2散布すると(仮比重0.9、孔隙率65%の現地土壌では、約15cmの深さにまで8mmol/100gを添加したことに相当)、作土の可給態リン酸が126mg/100gにまで低下する。pH低下とEC上昇を修復するため、処理2週後から水100L/m2および粒状苦土石灰183g/m2を2週間おきに3回施用すると、pHおよびECは処理前のレベルまで回復する。浄水汚泥15kg/m2を15cm程度の深さまで土壌混和しても、可給態リン酸は332mg/100gまで低下する。各処理区とも作物生育は順調で、葉身リン濃度は無処理区よりも低く、また白化症も発生していない(表1)。

[成果の活用面・留意点]
1. 塩化第二鉄の散布は、天地返しや排土客土より少ない労力で、促成栽培スイートピーの休閑期を利用し迅速に可給態リン酸を低減させることが可能であるが、リン酸は貴重な資源であり、またpH低下やEC上昇への影響が大きいので、現地圃場に散布する場合は小面積での予備試験を行い、必要最小量を確認した上で施用する。
2. 浄水汚泥の本県施肥基準における、畑地土壌への客土量の指針は、10-30kg/m2である。

[具体的データ]
図1 各種資材の可給態リン酸低減効果

図2 塩化第二鉄および浄水汚泥処理による無機態リン酸の形態変化

図3 塩化第二鉄の処理濃度が土壌の可給態リン酸、pHおよびECに及ぼす影響

表1 塩化第二鉄、浄水汚泥処理後の土壌pH、EC、可給態リン酸含量並びにスイートピーの草丈と葉身リン酸含量
[その他]
研究課題名:地力保全対策等診断調査 作物生理障害診断調査
予算区分:県単
研究期間:2006〜2008年度
研究担当者:岡本 保

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