陰イオン交換能を持つ炭化物を用いた高設施設排水中の硝酸性窒素の除去


[要約]
陰イオン交換能を持つ炭化物を充填した浄化槽を設け高設施設からの排水を通過させることで、高設施設から排出される硝酸性窒素量を0.2mg/L以下に低減できる。

[キーワード]硝酸性窒素、機能炭、窒素除去、高設施設、養液栽培

[担当]静岡農林研・生産環境部
[代表連絡先]電話:0538-36-1556
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・土壌肥料
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
近年開発された陰イオン交換能を持つ炭化物(以下、機能炭)は1.3mol(-)/kg(硝酸性窒素で18gN/kg)を超える高い交換容量を持つ。さらに機能炭は、食品残渣等の未利用有機物資源から安価に製造でき、固定された硝酸は植物が利用可能である。
 機能炭をイチゴの高設施設に活用すると、イチゴの栽培様式を変更することなく硝酸負荷が低減でき、さらに機能炭の回収・再利用が容易となることが期待できる。冬期の施設栽培においては、設置面積が小さいことや、脱窒に較べて浄化能力の温度依存性が極めて点も長所である。
 養液栽培からの廃液のように多成分を含む溶液中での機能炭の硝酸吸着能に関する知見はない。ここでは高設施設からの廃液が接した際の機能炭の化学的性質を実証的に検討し、イチゴの高設施設から排出される排水中の硝酸性窒素の低減効果を示す。

[成果の内容・特徴]
1. 実証に用いたシステムは、高設施設の排水が浄化槽を通過する構造を持つ。浄化槽内部には機能炭が充填されており、仕切り板に沿って水が上下に移動することで排水がむらなく機能炭と接触するよう設計されている(図1)。滞留時間は約1日である。
2. 図1のシステムを用いて排水が十分な量の機能炭を通過するように設定すると、通常管理したイチゴの高設施設において栽培期間中の排水中の硝酸性窒素濃度を大幅に低減できる。図2の例では栽培期間を通し、排水中の硝酸性窒素濃度は0.2mgN/L以下、排水中の硝酸積算量に対する処理水の硝酸積算量の割合は2%である。
3. 機能炭は一価の陰イオンを特異的に交換し硝酸との親和性が高い。未使用の状態では塩化物イオンで飽和しているが、浄化に用いると最終的に硝酸飽和となる(データ省略)。
4. 機能炭充填量を小さくし、硝酸吸着容量と飽和後の挙動をみたものが図3である。浄化期間中に陰イオン交換容量が徐々に低下し、これにより機能炭に吸着していた硝酸が脱着するために廃液に較べ処理水の硝酸性窒素濃度が高まる。また、実際の最大硝酸吸着量は陰イオン交換容量から計算される量より小さい。
5. 陰イオン交換容量が減少する要因の一つは炭酸水素イオンである。排水中には0.4〜1.3mMの炭酸が溶存しているが、機能炭懸濁液にこれと同等の濃度の重炭酸カリウムを加えると陰イオン交換容量が減少する(図4)。

[成果の活用面・留意点]
1. 硝酸性窒素による環境負荷低減技術に機能炭を用いる際の基礎資料として活用できる。
2. 機能炭の最大吸着量は栽培条件、地域水質などによって大きく異なるので、設計時に必要量を見積もることは難しい。実用化にあたっては、濃度を随時チェックし途中で機能炭を交換する等の工夫が必要である。
3. 硝酸が吸着した機能炭を土壌に施用すると、硝酸が作物に吸収されることが確認されている。

[具体的データ]
図1 高設施設の排水浄化システムの模式図

図3 機能炭の硝酸吸着容量と飽和後の挙動
図2 機能炭による高設イチゴ施設排水中の硝酸性窒素の浄化例
図4 機能炭の陰イオン交換容量に対する炭酸塩溶液添加の影響
[その他]
研究課題名:砂地野菜畑における畜産由来有機性資源の循環利用に伴う環境負荷物質の動態解明と環境負荷低減技術の開発
予算区分:指定試験
研究期間:2006〜2008年度
研究担当者:福島務、高橋智紀、林聡(日本植生株式会社)、横山理英(日本植生株式会社)

目次へ戻る