灰色かび病菌のコハク酸脱水素酵素阻害剤に対する有効な感受性検定法


[要約]
ボスカリド、ペンチオピラドのコハク酸脱水素阻害剤(SDHI剤)に対する灰色かび病菌の感受性検定には、SDHI剤1ppm含有YBA寒天培地ペーパーディスク法が適する。

[キーワード]灰色かび病菌、感受性検定、SDHI剤、MIC値

[担当]三重農研・循環機能開発研究課
[代表連絡先]電話:0598−42−6357
[区分]関東東海北陸農業・関東東海・病害虫(病害)
[分類]研究・参考

[背景・ねらい]
灰色かび病菌は、耐性菌発生リスクが高いことから、殺菌剤の感受性程度を把握し、経年の感受性モニタリングを行なうことによって、感受性の低下を早期に検出することが重要である。SDHI剤(ボスカリド、ペンチオピラド)の感受性検定法として提案されているYBA寒天培地菌叢ディスク(YBA-CD)法およびGLYE寒天培地ペーパーディスク(GLYE-PD)法を用いて三重県採取菌株を検定したところ、100ppmでMIC値が得られない菌株を用いた防除試験では防除効果が認められ、適切な結果が得られなかった。そこで、SDHI剤に対する感受性を評価するための新たな検定法を検討するとともに、灰色かび病菌の感受性程度を評価する。

[成果の内容・特徴]
1. YBA寒天培地ペーパーディスク(YBA-PD)法は、胞子懸濁液を含ませた滅菌ペーパーディスク(東洋濾紙抗生物質検定用径6mm)を、SDHI剤を含有するYBA寒天培地(蒸留水1000ml、Yeast extract 10g、Bacto peptone 10g、Sodium acetate 20g、Agar 15g)に置床し、20℃で7日間培養後、菌叢形成の有無を調査する方法である。
2. ボスカリドにおいて、トマト、ナス及びイチゴの果実、葉、茎の標徴部から分離した2005〜2007年採取菌株を用いて検定すると、YBA-PD法では、MIC値が概ね1ppm以下と判断される(図1)。一方、YBA-CD法では、MIC値が各濃度で認められ、100ppmよりも高いと判断される菌株がある(図2)。
3. ペンチオピラドにおいて、同様に分離した2005〜2007年採取菌株(113菌株)を用いて検定すると、YBA-PD法では、MIC値が概ね1ppm以下と判断される(データ省略)。一方、GLYE-PD法では、MIC値が3峰型(2005年)を示し、100ppmよりも高いと判断される菌株がある(データ省略)。
4. 両剤ともYBA-PD法では、MIC値が概ね1ppm以下と判断されることから、SDHI剤1ppm含有YBA-PD法を用いて、同様に分離した2009年採取菌株の感受性検定を行なったところ、耐性菌は認められない(表1)。
5. 耐性菌対策は、薬剤感受性の耐性側へのシフトを早期に検出して、耐性菌による被害の発生を未然に防止するべきである。よって、SDHI剤1ppm含有YBA-PD法を用いた継続的な薬剤感受性のモニタリングは有効である。

[成果の活用面・留意点]
1. SDHI剤1ppm含有YBA-PD法は、感受性検定の1次検定に用い、生育菌株が得られた場合は、接種試験による2次検定を実施し防除効果を確認する。
2. 日本における灰色かび病菌のSDHI剤耐性菌は未確認であるため、YBA-PD法で検出できるかどうかの検証は出来ていない。

[具体的データ]
図1 灰色かび病菌のボスカリドに対するYBA-PD法によるMIC値別菌株数 図2 灰色かび病菌のボスカリドに対するYBA-CD法によるMIC値別菌株数
表1 2009年分離菌株の感受性検定
[その他]
研究課題名:病害虫発生予察等総合推進事業
予算区分:国補
研究期間:2005〜2009年度
研究担当者: 鈴木啓史、黒田克利

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