農産物直売所におけるトマト購買の際の生産者に対するロイヤルティの形成要因


[要約]
農産物直売所でトマトを販売する際に、消費者からのロイヤルティ(愛着)を獲得していくためには、おいしさに関して消費者が不満を感じる商品の出荷割合を減らすことが重要である。

[キーワード]ロイヤルティ、直売所、トマト、POSデータ、ヘドニック価格関数

[担当]中央農研・農業経営研究チーム
[代表連絡先]電話:029-838-8481
[区分]共通基盤・経営部会、関東東海北陸農業・経営部会
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
農業経営の販売戦略においては、自社の商品に対する消費者のロイヤルティを獲得していくことが有効である。特に、農産物直売所では、生産者の名前や顔写真が表示された商品も多いため、消費者の商品選択に当たって、生産者名で商品を選んでもらうことができる。そこで、トマトを対象に、農産物直売所のPOSデータを用いて、生産者別にロイヤルティ形成状況と商品の品質や価格を比較分析し、ロイヤルティ形成要因を解明する。

[成果の内容・特徴]
1. ロイヤルティの形成を「特定の生産者の商品を50%超買っている」という条件として見ると、分析対象の消費者50名のうち、生産者Aに対してロイヤルティを示した消費者は27名で最も多く、次いで生産者Bに対して13名、生産者Cに対しては0名で、いずれの生産者にもロイヤルティを示さなかった消費者は10名である。
2. 生産者間での商品の価格差を、ヘドニック価格関数を用いて計測した結果、商品の量目と糖度水準が生産者間で同一であった場合の価格差は、消費者からのロイヤルティを得ていないCに比べ、平均するとAは34円高く、Bは58円高い値付けがなされていると判断された(表1)。したがって、同程度の量目と糖度水準の商品を平均的に安い価格で販売したとしても、ロイヤルティの獲得につながっていない。
3. トマトは「糖度5%以上かつ酸度0.4%以上」の基準(以下、おいしさ最低基準と言う)を満たさないと、多くの消費者はまずいと感じると言われているが、平均値で見れば、いずれの生産者もおいしさ最低基準を満たしている(図1)。しかし、個々のトマトの糖度と酸度に関する分布は生産者により大きく異なり、おいしさ最低基準の未達成率は、小さい順に、生産者A30.6%、生産者B44.4%、生産者C65.7%となっている。すなわち、食味の点で消費者が不満を感じる商品が少ない生産者ほど、ロイヤルティを獲得している。

[成果の活用面・留意点]
1. 分析期間18か月間のうち、全員が出荷している日にちを選抜し、その期間に5日以上トマトを購入した消費者を対象としている。
2. 属性データは、データの収集期間中に各生産者が最も多く出荷した品種のものであり、生産者Aは桃太郎さくら、生産者Bは桃太郎、生産者Cはサンロードのデータである(いずれも大玉品種)。
3. 農産物直売所において、トマトなど商品により品質差が生じやすい品目の販売戦略構築に活用できる。

[具体的データ]

(田口光弘)

[その他]
研究課題名:関東・東海・北陸地域における個別経営体の総合的経営管理手法及び多様な主体間連携による地域活性化手法の開発
中課題整理番号:211a.3
予算区分:基盤、科研
研究期間:2006〜2010年度
研究担当者:田口光弘、柴田静香、佐藤和憲
発表論文等:田口光弘(2010)フードシステム研究、16(4):25-31

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