コクシジウム発症前の抗コクシジウム製剤の投与は和牛子牛の発育を改善する


[要約]
牛コクシジウム症が散発する和牛繁殖農場において、発症前から抗コクシジウム剤(トルトラズリル製剤)を用いて対策することで、糞便中オーシスト数の減少と発症頭数の抑制が認められ、その結果として子牛の哺育育成時の発育が改善される。

[キーワード]和牛、コクシジウム、発育性

[担当]岐阜県畜産研・飛騨牛研究部
[代表連絡先]電話:0577-68-2226
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(大家畜)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
和牛繁殖農家では、生産子牛の損耗率低減は経営の強化に直結する重要な課題であるが、下痢や呼吸器病による子牛の事故率は依然高い状況にある。
 下痢の主要な原因の一つに寄生虫疾患である牛コクシジウム症があり、重症例では血便を呈し発育不良となり、増体の回復に数週から数カ月を要することも少なくないことなどから、経済的にも大きな影響を与えていると言われている。
 今回、生後20日齢前後にコクシジウム症が疑われる症例が散発する和牛繁殖農場において、子牛の発育改善を目的に、生後10日齢という早い段階で抗コクシジウム剤であるトルトラズリル製剤を単回投与し、子牛の発育性、糞便からのコクシジウム分離状況、糞便性状、下痢および呼吸器病の発生に与える影響について調査する。

[成果の内容・特徴]
1. 和牛子牛40頭を生年月日、性別、血統、枝肉重量の期待育種価および生時体重を考慮し、生後10日齢でトルトラズリル製剤(抗原虫剤)を投与する試験区と無投与の対照区を設定、同一牛房で同様の飼養管理を実施する。
2. 2週間毎に実施した発育性調査から、生後2週から150日にかけて試験区の発育が対照区より良い傾向があり(図1)、試験開始日齢から240日齢までの増体量(+8kg)の改善が認められる(表1)。
3. 生後10、24、38および70日齢のオーシストの分離状況から、トルトラズリル製剤の発症前投与は子牛のコクシジウムの感染時期を遅らせ、さらに、陽性率や糞便中のオーシスト数も減少させる(表2)。
4. 生後10日齢から70日齢までの糞便スコアに差は認められない(表3)。
5. 抗コクシジウム剤投与により、コクシジウム症の治療回数は減少する。また、呼吸器病の発生も減少する傾向にある(表3)。

[成果の活用面・留意点]
1. 牛コクシジウム症に対して有効な発症予防処置であり、治療回数の減少による管理の省力化と、発育改善効果が期待できる。
2. 農場によりコクシジウム症の発症時期は異なるため、発症時期や投与薬剤により投与時期の検討が必要。
3. 下痢の原因は多岐にわたるため、衛生管理や飼養管理などの基本的な対策が必要。

[具体的データ]
表1 供試牛の頭数、性別および発育性について
表2 コクシジウムの分離状況 表3 糞便スコアおよび治療歴

(岐阜県畜産研)

[その他]
研究課題名:飛騨牛改良事業
予算区分:県単
研究期間:2009〜2010年度
研究担当者:武田賢治、平 勇人

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