メタン発酵消化液を水口施用した飼料イネの収量と品質


[要約]
乳用牛のふん尿を主体としたメタン発酵消化液を用水と混合し、水田の水口から施用する方法で飼料イネを栽培すると水尻で収量が低下するが、サイレージの品質は慣行栽培と同程度である。

[キーワード]家畜ふん尿、メタン発酵、消化液、飼料イネ、省力化

[担当]栃木酪試・環境飼料部・畜産環境研究室、畜環研・研究開発部
[代表連絡先]電話:0287-36-0768
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境、草地)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
メタン発酵処理は、家畜ふん尿からメタンガスという有価物を取り出せる優れた技術である。その処理残渣であるメタン発酵消化液(以下、消化液)は、ふん尿に含まれる窒素、リン、カリウムが残存しており、良質の有機質液状肥料である。
  消化液の液状物としての特性を生かしながら肥料としての利用促進を図るため、消化液を施用した飼料イネの収量性と品質について、化学肥料で栽培した飼料イネと比較し、その特徴を明らかにする。

[成果の内容・特徴]
1. 据付型の消化液施用装置は、消化液貯留タンク(6m3)、消化液と用水の混合槽(0.15m3)及び付帯するポンプや配管から構成され、水田の水口から入水する際、消化液(N-P-K 0.17-0.12-0.23%)の時間当たり流量を一定に保ちながら必要量を施用できるものである(図1)。なお、消化液施用前の水田は落水状態、施用時の水尻は閉じた状態とする。
2. 乳用牛のふん尿を主体とした消化液を水口施用した水田(以下試験区)の飼料イネは、水尻で収量が低下する(表1)。また、消化液中のアンモニア態窒素と同量の窒素肥料を施用した水田(以下対照区)の飼料イネと比べて区全体の収量は低くなる(表2)。
3. 飼料イネ乾物中の全窒素(T-N)含量は試験区の水尻で低くなる。また、乾物中の硝酸態窒素(NO3-N)含量は、試験区の最も多い地点でも家畜に給与する場合の危険水準と比べて大幅に低い。また、カリウム(K)についても対照区に比べ試験区の平均値は低い(表2)。
4. 各試験区の飼料イネを材料としたパウチサイレージでは、官能検査、VBN/TNの値とも試験区の品質が優れている。また、試験区ではpH、Vscore、官能評価の値に水口からの距離による違いはみられない(表3)。
5. 区全体の飼料用イネを材料として調製したロールベールサイレージの発酵品質は、pH、Vscore、VBN/TNいずれにおいても試験区と対照区の値に明確な差はみられず、良質なサイレージ調製が可能である。

[成果の活用面・留意点]
1. 30.2a(水口・水尻間114.6m)の水田(試験区)で「リーフスター」を栽培した場合のデータ(2009年度実施)である。
2. 水尻に向けての収量低下が問題となる場合は、水尻近辺に水口を増設する、水尻に補正のための施肥をする等の対策が必要である。

[具体的データ]

(栃木酪試)

[その他]
研究課題名:メタン発酵消化液の飼料イネ利用技術の開発
予算区分:委託(畜産環境緊急技術開発事業)
研究期間:2009〜2010年度
研究担当者:木下 強、阿久津充、s正人、長峰孝文(畜環研)

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