畜舎排水の低曝気処理水の利用


[要約]
畜舎排水を少ない送風量で曝気処理すると、無臭黄褐色透明の液体が得られる。処理水は硝酸イオン・硫酸イオン・微生物を含んでおり、これを堆肥材料に混合すると、堆肥の臭気発生を抑え、芝生とミニトマトの潅水として利用すると、根の重量が増加する。

[キーワード]畜舎排水、曝気、臭気、液肥

[担当]埼玉農総研・養豚・養鶏担当
[代表連絡先]電話:048-536-0441
[区分]関東東海北陸農業・畜産草地(畜産環境)
[分類]技術・参考

[背景・ねらい]
汚水処理場などでは、少ない送風量で排水を曝気処理すると汚泥中の微生物が主に硝酸イオンを使って有機物を分解することが知られている。この処理方法(低曝気処理)を畜舎排水処理に応用し、処理水を利用した堆肥化過程における臭気発生抑制技術及び潅水利用技術を開発する。

[成果の内容・特徴]
1. 曝気槽(約6m3)と貯留槽(約6m3)からなるFRP製回分式低曝気処理装置を設置した。曝気槽にはブロワ(100L/分)と塩化ビニールパイプ製散気管を設置。1か月間の低曝気による活性汚泥馴養後、BOD1,000mg/L以下の畜舎排水2m3を2〜3週間隔で投入し、空気量毎分50〜60Lでの回分処理を連続して行った。処理期間中の曝気槽の溶存酸素濃度は0.1mg/L程度である。
2. 排水中のアンモニア態窒素は2〜3週間で硝酸態窒素に変化する。これを硝酸試験紙で確認し曝気を停止し、24時間汚泥を沈殿させると無臭黄褐色透明の上澄み液が2m3得られる。この上澄み液(処理水)の平均成分はpH7.2、BOD 20mg/L、硝酸イオン290mg/L、硫酸イオン91mg/Lである。また、処理過程で大腸菌数は検出限界以下になる。
3. 家畜ふんの堆肥化過程で、堆肥材料に重量当たり1%の処理水を混合すると、アンモニア発生は抑制しないが、堆肥化2週間目からは堆肥切り返し時に発生する悪臭成分のうち、硫化水素とメルカプタンを削減できる(図1)。
4. 夏期に芝生の潅水代わりに処理水(窒素200mg/L)を毎週1回5か月間1L/u散布(試験区)したところ、水を潅水した対照区に比べ、芝生の生育が旺盛になり、乾燥重量が増加し(図2)、芝生土壌の浸水性が増加する(図3)。
5. ミニトマトの潅水に処理水(窒素200mg/L)を使用し追肥しない試験区と、潅水は水を使用し堆肥(窒素2%)を追肥する対照区で収量等を比較した。ミニトマト果実の収穫数、収量は試験区が高いが、平均果重は対照区が重い。果実の糖度及びアスコルビン酸濃度は試験区が高く、糖酸比は対照区が高い傾向である。根の容積、重量及び吸水量は試験区が多い。

[成果の活用面・留意点]
1. 養豚及び酪農経営の畜舎排水を利用できる。
2. この処理装置は排水の放流を目的としたものではない。
3. 牛ふん堆肥でも同様な臭気抑制効果がある。

[具体的データ]

(崎尾さやか)

[その他]
研究課題名:低曝気による畜舎汚水処理技術の確立、電子受容体水を利用した堆肥・液肥生産とその利用
予算区分:受託
研究期間:2007〜2009年度
研究担当者:崎尾さやか、佐藤一弘
発表論文等: 1)崎尾ら「堆肥の製造方法」特許出願2007-225484
2)崎尾ら(2011)埼玉農総研研究報告第10号

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