微生物の分化誘発を制御する情報伝達蛋白質
[要約]
放線菌Streptomyces coelicolorにおいてGTP結合蛋白質の一種ObgをコードするObg遺伝子をクローン化した。遺伝子増幅により胞子形成が抑制されることなどから、Obgは分化を制御する情報伝達蛋白質であると結論した。
- 食品総合研究所・生物機能開発部・微生物機能工学研究室
- 連絡先 0298-38-8125
- 部会名 食品
- 専門 バイテク
- 対象 微生物
- 分類 研究
[背景・ねらい]
放線菌をはじめとする微生物の形態分化は、細胞内のGTPレベルの低下によって引き金を引かれる。そこでこのGTPレベルを感知すると想定される蛋白質の探索を放線菌
Streptomyces coelicolorを研究対象として行った。
[成果の内容・特徴]
- 枯草菌においてGTP結合蛋白質として発見されているObg蛋白質を引き金となる有力候補と見なし、種々のプライマーを用いて放線菌S.coelicolorから相同遺伝子のクローン化を行った。
- S.coelicolorにおいてobg遺伝子のクローン化に成功した。
- 遺伝子破壊実験により、obgは必須遺伝子であることが判明した。
- obg遺伝子を多コピープラスミドを用いて細胞内で増幅させると分化(気菌糸形成)が抑制された。その抑制は、GTP生成阻害剤デコイニンの添加により回復した。(図2)
- 部位特異的変異手法により、多くの変異型obg遺伝子を作成した。これら、変異型obgは気菌糸抑制効果を消失していた。
- Obg蛋白質の抗体実験から、Obg蛋白質は分化の開始と同時に急速に消失した。(図1)
- 3〜6により、Obg蛋白質は細胞内のGTPレベルを感知する情報伝達蛋白質であると結論した。形態分化誘発における模式図を図3に示した。
[成果の活用面・留意点]
- 本成果は、細胞内GTPレベルという生理学レベルの問題と分化制御遺伝子のコントロールという遺伝子発現レベルの問題をリンクさせ得た点に最大の意義がある。
- 抗生物質生産などいわゆる二次代謝の誘発は形態分化と密接にリンクしているので、Obg蛋白質の研究は有用物質の生産に活用し得る。
[その他]
- 研究課題名:微生物の分化誘発機構の解明
- 予算区分:経常
- 研究期間:平成10年度(平成3〜12年)
- 研究担当者:越智幸三
- 発表論文等:
- Okamoto,S.,and K.Ochi.Mol.Microbiol.30:107-119(1998).
- Han,W.-D.,S.Kawamoto,Y.Hosoya,M.Fujita,Y.Sadaie,K.Suzuki,Y.Ohashi,F.Kawamura,and
K.Ochi.Gene,217:31-40(1998).