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分析法の妥当性確認に関するガイダンス >共同試験〜定量分析法

共同試験

ここではAOAC Internationalの共同試験に関するガイドラインのポイントを紹介します。

注)翻訳ではありませんので詳しくは以下の参考文献を参照願います。

参考文献
AOAC Int. (2003). Appendix D: Guidelines for Collaborative Study Procedures to Validate Characteristics of a Method of Analysis. In Official Methods of Analysis of AOAC Int.17 ed. volume II, Gaithersburg, MD,USA.

 

<AOACガイドラインの目次>
p1 共同試験の設計に関するAOACの推奨事項
  定量分析の場合の必要最低条件
  定性分析の場合の必要最低条件
1.共同試験を始める前の準備
  1.1 試験の目的および適用範囲の決定
  1.2 新規または既存の分析法の最適化
  1.3 最適化された分析法の単一試験室での検証
p2   1.4 分析法のプロトコル作成
  1.5 参加試験室の募集
  1.6 試験の説明書および報告様式 
p3   1.7 練習試料
2.共同試験の設計
  2.1 一般原則
  2.2 試験室
p4   2.3 試験材料
p5   2.4 反復
  2.5 その他の設計上の注意
3.共同試験のための材料の準備
  3.1 一般原則
  3.2 共同試験に適した材料 
p6   3.3 ブランク試料
  3.4 検出限界および定量限界 
  3.5 コントロール試料
4.試料の配付
  4.1 共同試験試料の送付
p7   4.2 参加試験室の義務
5.統計解析
  5.1 データのチェック
  5.2 外れ値
p8   5.3 個々の結果のバイアス
  5.4 精度
p9   5.5 HORRAT
  5.6 不正解の値(False Positive and False Negative Values)
  5.7 最終報告書
p10 6.参考文献
p11 付則1 Cochran の外れ値検定の数表
付則2 Grubbsの外れ値検定の数表
p12 付則3 外れ値検定の流れ図
表1  最終報告書の様式
表2  AOACのOffical Methodを用いた化学分析値の結果提示のための表の見本

 

AOACの共同試験ガイドラインのポイント

推奨事項の概要

定量分析の場合の最低必要条件 (上記参考文献のページ、p1)
材料数
material
5材料以上
3材料以上(単一マトリックスの一つの濃度のみ試験する場合)
注)マトリックスとは分析対象成分と共存する他の成分
試験
室数
8以上(このガイドラインで定めた統計的外れ値検出手順に従った結果、有効なデータと判定された試験室数)
5以上(非常に高額な装置を使用するとか専門の試験室が対象など特別な場合)
注)試験室が減少するほど得られる統計量の信頼区間は広くなります
反復数 1回(試験室内の併行精度、repeatabilityが必要ない場合)
2回(試験室内の併行精度が必要な場合、非明示の同一試料またはYoudenペアの試料によって反復は実施すべきです)


定性分析の場合の最低必要条件 (p1)
試験室数 10以上
試料 1マトリックス当たり2濃度、1濃度当たり6試料、
1マトリックス当たり陰性コントロール6個

注)
定性分析法の共同試験に関するのこれらの条件はHarmonized Guideinesには含まれていません。
定性分析法の共同試験に関するHarmonized Guideinesは2005年8月現在のところありません。


1.共同試験を始める前の準備(単一試験室で行うこと)

実施原則 (p1)
(1)分析方法を最適化しておかないと共同試験を実施できません。

(2)単一試験室において測定法の最適化、頑健性、干渉要因に関してできるだけ多くの実験を行います。
同一試料を異なる日に、日毎に検量線を作成し、日毎にオペレータを変えて分析すると、実際の分析時に起きえる分析値の変動に関する多くの情報が得られます。
プロトコルの作成 (p2)
(1)プロトコル(実施手順書)は、全試験室が同一条件の分析が実施できるようにステップ毎に分けて明確に記述します。
(2)時間と試料量に余裕があれば3試験室で予備試験を実施します。
参加試験室への要求事項 (p3)
(1)プロトコルにはできる限り忠実に従ってもらいます。
(2)プロトコルからの逸脱点はどんなに些細な点についても全て報告してもらいます。
(3)検量線データを分析データとともに参加試験室に提出してもらいます。
参加試験室の習熟 (p3)
(1)必要ならば実際の試料を送付する前に、練習用試料をプロトコルと一緒に送付して分析法に習熟してもらいます。
有効数字 (p3)
(1)参加試験室の分析値を用いて報告のための最終的な平均値および標準偏差を計算するときは、計算途中で四捨五入、切り上げ切り下げのような丸めを行わず、計算機またはコンピュータで直接計算します。
(2)(1)で得られた標準偏差の有効数字は2桁にします。
(3)平均値は標準偏差の表示に合わせます。
 例えば、sR=0.012ならば平均濃度は0.147、RSDR=8.2%と報告します。平均濃度を0.1473あるいは0.15としてはいけません。


2.共同試験の設計

関連用語 (p3)
repeatability
Sr2またはSr
同一条件(例えば、同一の試験室、装置、オペレータ、分析日)下で非明示の材料を併行分析した、またはYoudenペアの材料を分析したときの分析値の変動(分散または標準偏差)。
reproducibility
SR2
または SR
試験室間の分析値の変動(系統誤差)と試験室内の分析値の変動(偶然誤差)が複合した変動。
異なる条件(例えば、試験室、装置、試薬、検量線、オペレータ、分析日、プロトコルの解釈)下で同一材料について同一分析法で分析した値の変動(分散または標準偏差)。
Valid data 外れ値検出で除外されず残ったデータ。


注意事項
(1) 試料コードには乱数を用います。 (p3)
(2) 試料の濃度に関する前情報(明示した反復を含む)は、分析値の変動を過小評価する危険があります。 (p3)
(3 )外れ値として検出される試験室の許容できる最大比率は、分析結果を提出した試験室数の2/9であり、かつ外れ値でない試験室数が8以上必要です。 (p3)
(4) 標準試料は、入手しやすいものであれば試験室毎に用意し、入手困難なものは配付します。 (p3)
(5) 得られる情報の精度とコストのバランスを考えたときの最適試験室数は8〜10(valid data)ですが、これ以上の試験室数を認めない訳ではありません。 (p4)
(6) 一般的には1試験室1分析者です。 (p4)
(7) 同じ試験室内の分析者による変動を検討したい場合は、全ての試験室で複数の分析者が参加する必要があります。 (p4)
(8) 試薬・検量線作成・カラムなどを独立に準備しなければ、同じ試験室の2人の分析者を2試験室の代わりにすることは、一般的にはできません。 (p4)
(9) 同じ組織内の異なる試験室は、各々が分析機器、試薬などを所有して独立に運営されているならば、別々の試験室として参加できます。 (p4)
(10) 配付試料の均一性の確認:分析値の変動要因として試料の均一性に問題ないことを保証しておくことは重要です。 (p4)
均一性確認用試料は配付試料の中からランダムに抜き取ります。 (p4)
注)これ以上具体的な均一性確認試験の方法について、このガイドラインでは規定していません。  >>詳細 (334KB A4サイズ 9ページ)
(11) 一つの材料(material)とは、一つのマトリックスにおける、ある1濃度の1成分のことです。(p4)
(12) 非明示の反復でも明示した反復でも、このような2試料は単一材料(single material)です。 (p4)
(13) Youdenペアの試料とは、成分濃度の差が5%以内の共同試験で配付する2試料のことです。2試料XとYの成分濃度をXc、Ycとしますと、Xc>Ycの場合、
(Xc-Yc)/Xc <= 0.05 になります。 (p4)
(14) ブランクや陰性コントロールの試料は、例えば定量限界や検出限界付近の分析の場合は材料(material)とみなしますし、ブランクが単なるコントロールの場合(例えばチーズの脂質分析)は材料とみなしません。
(15) 試料はプロトコルに定めた必要量だけを送付します。試料の再送が必要な場合は、参加試験室は理由を説明しなければなりません。 (p4)
(16) 新しい複雑な分析法の場合には、共同試験の材料とは別に濃度を明示した練習用の試料を配付して、分析値が設定した範囲内に入るまで共同試験を始めるべきではありません。 (p5)
(17) データ解析で用いる 分散分析では、分析した時間が異なる(併行分析した)分析値は統計的に独立(ドリフトなし、相関なし)と仮定していますので、この条件を分析値が満たしていることを確認しなければなりません。 (p5)
(18) 添加回収試験で添加する量は、試料中に元々含まれる量を超えないようにすべきです。
また、添加する物質の化学形態は添加される材料中の化学形態と同じであるべきです。
  (p6)
(19) 参加試験室はブランクの値を含め、事前説明がない限り、平均をとるなどの加工をしない生データを報告します。
ブランクの値が試料の値より大きい場合は、ゼロではなく負の値を報告します。
「トレース(trace)」、「未満(less than)」の表現は共同試験実施責任者の指示に従います。
ただし、言葉を用いた報告は統計処理で扱えないため避けるべきです。
例え定量下限以下の場合でも実際に得られた値を報告します。 (p7)


試験室内誤差を評価したい場合の反復方法 (p5)

 (以下は望ましい順です。反復方法は参加試験室に事前に知らせるべきではありません)
(1)Split level (Youdenペア)
濃度だけがわずかに異なる(濃度差5%以内)2試料に乱数の試料コードを付けて配付し、独立に1試料1回ずつ分析してもらいます。
もともと濃度差のある試料を用意するか、希釈あるいは濃縮により濃度調製した試料を用意します。
(2)試験の一部はYoudenペアの試料であり、他は非明示の2反復試料
(3)乱数でコード化した非明示の2反復試料
3反復以上にしても2反復と比較して効率が良くありません。
反復数を増やしても室内誤差の情報が増える(精度が向上する)だけです。
分析値の変動要因の中で室内誤差は通常小さいため、その重要性も低くなります。
反復回数を増やすよりも、試験する濃度および/またはマトリックスを増やす方が有効です。
(4)独立した材料
関連のない独立した材料は、Split levelの試料として精度の計算、作図が可能です。
ただし、試料の濃度差は5%以内にすべきです。濃度差が大きいほど得られる室内誤差の精度は低くなります。
(5)明示した反復
実際に用いられている方法の一つです。Youdenペアまたは非明示2反復の試料と同じ原材料を用いることを勧めます。
(6)品質管理用の材料
共同試験の代わりに、各試験室が個別に実施している品質管理用の材料を用いた品質管理テストの結果(2反復以上)から室内誤差を計算できます。室内誤差(併行精度)の計算に必要な反復数をこのガイドラインでは規定していませんが、Single Laboratory ValidationのHarmonized protocolでは6反復以上と規定しています。


5.統計解析 

(1)材料毎に分析値のグラフを作成してデータをチェックします。 (p7)
グラフの例:Youdenの2試料プロット (184KB A4サイズ 3ページ) 試験室毎の平均値順に試験室を並べ、縦軸が2試料の各分析値、横軸が試験室のプロット (160KB A4サイズ 1ページ)
(2)外れ値検定で残ったvalid dataのみを統計解析に用います。 (p7)
(3)外れ値 (p7)
プロトコルに従わなかったなど明らかな棄却理由がない場合に、参加試験室の2/9を超えた棄却は通常棄却しすぎと考えます。
試験室数が多い共同試験の場合には棄却率上限の2/9はもっと低い方が適しています。
(4) Cochran検定 (p7)
室内誤差の外れ値を検出する検定方法です。
検定統計量=各試験室の室内誤差分散の最大値/全試験室の室内誤差分散の和
片側危険率2.5%の数表を使用します。


Cochran, W.G. (1941). The distribution of the largest of a set of estimated variances as a fraction of their total. Annals of Eugenics, 11, 47-52.
(5) Grubbs検定 (p7)
試験室毎の平均値の中の外れ値を検出する検定方法です。
最初に外れ値1個の検定を行い、次に外れ値2個の検定を行います。
下側または上側1個の外れ値の検定には両側危険率2.5%の数表を使用します。
1個の外れ値の検定で外れ値が検出されなかったら、2個の外れ値(下側2個、上側2個、
または下側1個・上側1個)の検定を両側危険率2.5%の数表を使用して行います。

Grubbs, F.E. (1950). Sample criteria for testing outlying observations. Ann. Math. Statist. Assn.,21, 27-58.
(6)Cochran検定、外れ値1個のGrubbs検定、外れ値2個のGrubbs検定の順に検定を行い、いずれの検定でも外れ値が検出されなくなるまで検定を繰り返します。 (p8)
(7)外れ値になる試験室数の比率が上限(2/9)を超える場合は、上限を超える前に外れ値検定を終了します。 (p8)
この場合には、外れ値を全く除かず全データを用いて精度指標を計算するか、分析法を疑わなければなりません。 
(8)最終的にある値を外れ値として除くべきかどうかの決定は統計的に決める性質のものではありません。
共同試験責任者が、外れ値検定により示された外れ値である確率および関連情報に基づいて判断しなければなりません。
ただし、外れ値について独自の判断をしたとしても、他の共同試験結果との調和を保つために、ここでの外れ値検出手順に従った結果は報告すべきです。 (p8)
(9)回収率 (p8)  >>詳細 (103KB A4サイズ 4ページ)
・marginalとtotalの2種類の定義があります。
・2種類の回収率の分散の計算式を示してmarginalの方がtotalよりも分散が大きくなることを説明しています。
(10)精度 (p8-9)  >>詳細 (129KB A4サイズ 10ページ)
・併行標準偏差(repeatability standard deviation)Srの計算方法
非明示の2反復試料の場合とYoudenペアの場合の計算式を説明しています。
・室間再現標準偏差(reproducibility standard deviation)SRの計算方法
非明示の2反復試料の場合とYoudenペアの計算式を説明しています。
Youdenペアの場合には試料Xと試料Yの分散に有意差がないことをPitman(1939)の検定で確認します。

(11)HORRAT (p9)  >>補足 (108KB A4サイズ 3ページ)

・Horwitz ratioからの造語です(このコメント
はガイドラインに記載されていません)。

      

   ただし、

ここで、Cは化学分析値の平均濃度で、10進表記の値(濃度100%のときC=1、濃度1%のときC=0.01、濃度1ppmのときC=0.000001)です。

・HORRATは共同試験で得られた化学分析値の室間再現相対標準偏差(Relative reproducibility Standard Deviation)(RDSR,%)の値が、過去の化学分析の共同試験結果をHorwitz博士らが解析して得られた室間再現相対標準偏差の経験則の値(Predicted Relative reproducibility Standard Deviation)(PRSDR,%)と比べてどの程度かを比率で示しています。

・AOACのガイドラインでは、0.5 <= HORRAT <= 2.0 を許容範囲にしています。
これは共同試験で得られた室間再現相対標準偏差が、過去の実験に基づく室間再現相対標準偏差の予測値に比べて小さすぎても大きすぎても何か実験に問題がないか検討した方が良いことを意味します。

・1.5<HORRAT<=2.0については、報告書の中でHORRATが高いことを考察すべきです。

・ ただし、高濃度側(100%付近)と低濃度側(10-8以下)でのHORRATの有効性については疑問があるため、これらの濃度域ではレフリーの判断にゆだねられています。

・ HORRATの対象になる分析法
   多くの化学分析法

・ HORRATの対象外の分析法
1)物理特性値
粘度、屈折率、密度、pH、吸光度など
2)経験的分析法(empirical methods)
例えば、食物繊維、酵素、水分、またはポリマーのように分子量不定なものの分析法
3)品質測定(”Qualty” measurement、品質の善し悪しを判定する測定法)
例えば、固形物重量(drained weight)

(12)定性分析の結果の確からしさ (p9)
・偽陽性および/または偽陰性が約10%を超えたら結果を解釈できなくなります。
・偽陰性を除いたゼロの割合が約30%を超えると結果の解釈ができなくなります。 
(13)最終報告書に記載すべき項目(p9-10、p12の表1)
・用いた材料および材料調製に関する情報
・全ての有効データおよび外れ値(外れ値検定で除外された値)を含む表
・反復分析した場合は、平均値ではなく反復毎のデータを表に記載します。
ただし、微生物の分析法のように平均値を用いると決まっている分析法は除きます。
・試料の変質、プロトコルからの逸脱、汚染など明らかな理由で異常値と判断したデータは表に記載しません。
・謝辞への記載の同意が得られたら参加者の氏名および所属先

  1)材料(濃度の昇順に記載)
  2)外れ値検定の後に残った試験室数
  3)外れ値検定で除外された試験室数
  4)平均値(単位)
  5)既知ならば真値または設定値
  6)併行標準偏差(repeatability standard deviation, sr
  7)併行相対標準偏差(RSDr
  8)併行許容差(r=2.8sr
  9)srが有効でないときのオプション:総室内標準偏差(se
  10)室間再現標準偏差(sR
  11)室間再現相対標準偏差(RSDR
  12)HORRAT(化学分析値の場合)
  13)室間再現許容差(R=2.8sR
  14)報告可能なら回収率(% Rec)

 

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