コラム
生薬を食べる食品害虫
一般に生薬の害虫は、貯蔵穀物、貯蔵動物質、乾燥果実、木製家具などの害虫と共通した種類が多いといわれています。しかし、具体的な生薬と害虫の被害の関係はあまり調べられていません。
食品害虫のジンサンシバンムシという甲虫は、漢字で「人参死番虫」と書きます。ジンサンとはニンジン(人参)のことで、薬用ニンジンと呼ばれるオタネニンジンを加害することから名前がついたのです。さらに、この虫はニンジンだけではなく多くの生薬に被害を与えるとして「クスリヤナカセ」という別の和名も提唱されています。薬屋を泣かせてしまう害虫という意味なのでしょう。
このように甲虫類は生薬の害虫となる種類が知られていますが、蛾類では詳しい報告はありませんでした。
代表的な食品害虫ノシメマダラメイガは、その強い雑食性から考えると、生薬の害虫になっても不思議ではありません。
そこで、漢方薬の処方によく用いるタイソウ、トウニン、ニンジン、チンピの4種類の生薬に対して、加害の確認と発育試験をしてみました。タイソウはナツメの果実、トウニンはモモの種子、ニンジンはオタネニンジンの根、チンピはウンシュウミカンの果皮を乾燥したものです。これらの生薬すべてはノシメマダラメイガの幼虫に加害され、30℃では平均36日で成虫になりました。
ノシメマダラメイガは、生薬害虫であることが確かめられたのです。
これまで生薬害虫は臭化メチルで防除されてきましたが、現在では低温処理施設が実用化され低温殺虫が行われています。また、私達は高圧炭酸ガスを用いた殺虫技術の開発を進めています。
参考文献
- 宮ノ下明大・渡辺俊彦・今村太郎 (2008) 家屋害虫 30(1): 9-13.
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更新日:2019年02月19日