【豆知識】

コラム

外来の貯穀害虫について

2009.06.22 今村太郎

 

貯穀害虫として知られている昆虫の多くは外来種であると考えられています。例えば米の害虫として有名なコクゾウムシは稲作の伝来とともに日本に侵入したと考えられています。害虫は人間の経済活動とともに世界中に広まって行きますので、鎖国が終わった明治以降、侵入種が急増しました。

コクゾウムシ
コクゾウムシ

例えば食品に対する混入で問題になるノシメマダラメイガの記録は大豆倉庫で発生した蛾を大正6年にマメマダラメイガとして記載したのが最古であると考えられていますが、瞬く間に広まり昭和の初めには全国で普通に見られるようになりました。そのほか、スジコナマダラメイガは大正12年に輸入米で発見された記録がありますが、現在では精米所などで普通に見られます。

ノシメマダラメイガ
ノシメマダラメイガ

昭和以降に定着したものとしては、例えばヨツモンマメゾウムシは、以前から輸入豆から発見されることがあったものの、昭和54年以降、港湾部を中心に倉庫、工場に定着していると思われます。

平成に入ってから定着もしくは分布拡大したと思われているものにはインゲンマメゾウムシがいます。この虫は昭和26年に沖縄に侵入したものの被害が拡大することはなく収束したように思われていましたが、平成3年には北海道で確認され、現在では北海道でインゲン豆の害虫として猛威を振るっています。現在、定着が懸念されているものにキマダラカツオブシムシがいます。平成5年の調査で神戸と大阪の倉庫で確認され、その後も捕獲の記録がありますが、実際に定着しているかどうかは詳細な調査が必要でしょう。

その他の外来害虫
その他の外来害虫

今後、このような外来種問題はどうなるでしょうか。私は新たな外来種が日本に定着するリスクは高くなって行くと思っています。

理由として、一つ目はグローバリゼーションがあります。今後ますます世界は小さくなり、世界からの物流とともに日本未定着種がやってくることでしょう。
二つ目は地球温暖化の懸念があります。日本の平均気温が予測通りに上昇するのであれば、熱帯地域の害虫が分布域を広げるかもしれません。
三つ目は臭化メチルの使用停止があります。臭化メチルは非常に効果的なくん蒸剤であり、貯穀害虫防除に世界中で使用されてきました。しかし、臭化メチルオゾン層を破壊する恐れがあることが分かり、モントリオール議定書により日本では2005年に検疫用など一部の用途を除き、原則的に使用停止になりました。これによって害虫の有力な殺虫手段を失いました。

外来種の侵入
外来種の侵入

ここに挙げた三つの理由は世界規模、地球規模での問題であり、対策は容易ではないでしょう。また一つ目のグローバリゼーションに関連して、もう一つの問題があります。世界貿易機関WTOの見解に基づき、非関税障壁の撤廃を目的として平成9年4月から改正植物防疫法が施行されました。この改正植物防疫法では輸入品で発見されても臭化メチルによる殺虫処理が必要でない非検疫有害動物が指定されました。
改正前は、もし日本未定着種が検疫をすり抜けたとしても、他に生きた害虫が検疫で発見されれば臭化メチルくん蒸処理が行われ一緒に殺虫されていたわけです。改正後は、検疫によって発見されたのが非検疫有害動物だけであれば臭化メチルくん蒸を行わないことになったので、検疫をすり抜けた日本未定着種が殺虫処理を受けずに日本に侵入する可能性が高まり、こういったすり抜けをなくすような検疫体制の強化が求められることになりました。
それと同時に、日本に既に生息する外来種でも海外には薬剤抵抗性や繁殖力の違う系統がおり、これらが日本に侵入する機会が増えることになり、害虫問題の拡大も懸念されています。
状況の変化はありますが、歴史が示す通り、人間が経済活動を行う限り、新たな害虫が侵入する可能性は常にありますので、冷静な対応が必要でしょう。

外来種の侵入対策
外来種の侵入対策

追記

平成23年3月7日の植物防疫法の改正により検疫有害動植物を学名で明示する方式(ポジティブリスト方式)に変更されました(農林水産省/輸入植物検疫の見直し)。
今後も改正が行われると思われますので、動向にご注意ください。(2013.06.10)

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参考文献

  • 平尾素一(1994)食品原料関連施設における性フェロモントラップによるマダラカツオブシムシ類 (Trogoderma属) の捕獲成績.環動昆 6: 182-186.
  • 伊東拓也・浦口宏二・高橋健一(2006)Acanthoscelides obtectusインゲンマメゾウムシの北海道における発生記録.北海道立衛生研究所所報 56: 101-103.
  • 日本生態学会(編)(2002)外来種ハンドブック.390pp.地人書館,東京.
  • 松村松年(1917)応用昆虫学(前編).731pp.警醒社書店,東京.
  • 中北 宏・池長裕史(1995)貯穀害虫に関する諸問題と防除の現状と今後の展望―I.貯穀害虫のもつ諸問題―.家屋害虫 17: 79-91.
  • 中北 宏・宮ノ下明大(2003)貯穀害虫防除のイノベーション技術.家屋害虫 25: 13-26.
  • 高橋 奨(1931)米穀の害虫と駆除予防.188pp.明文堂,東京.
  • 梅谷献二・岡田利承(編)(2003)日本農業害虫大辞典.1203pp.全国農村教育協会,東京.
  • 安富和男・梅谷献二(1983)衛生害虫と衣食住の害虫.310pp.全国農村教育協会,東京.
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関連情報

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更新日:2023年10月06日