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コラム

2012.03.23 宮ノ下明大
昆虫混入とブラット・ピット

2009年に劇場公開された映画『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』は、老人で生まれ、成長するにつれて若くなり、赤ちゃんで死んでいくという数奇な人生を歩んだ男の一生を描いた物語です。
ベンジャミン・バトンの人生
主人公の男ベンジャミンをブラット・ピット、妻のデイジーをケイト・ブランシェットが演じています。ブラット・ピットが主演した映画の中で、最も静かな演技をした作品ではないでしょうか。


ベンジャミンは成長して船乗りになり様々な国を旅します。そんな旅のなか、宿泊したホテルで知り合う外交官の妻のご婦人とのやり取りに、食品に混入する昆虫が登場する場面があります。

紅茶を飲む
それは夜中に語り合う二人が紅茶を飲もうとする場面です。ベンジャミンがミルクにするかハチミツにするかをたずねると、ご婦人は「ハチミツを少しだけ」と答えます。ハチミツの入った瓶をあけると、中にハエが5匹程混入していました。「ハエが入っているけど、いいかな」と聞くベンジャミンに、婦人は「それは、ちょっと」と答えます。混入していたのはイエバエのように見えました。
蜂蜜にハエ
会話はこれで終わりです。映画の中で大きな意味を持つ場面ではありません。では、なぜこのハエ混入場面は映画の一場面として必要だったのでしょうか。想像力を豊かにして考えてみましょう。

船乗り生活
私は、船乗りというベンジャミンの職業が関係しているのではないかと考えます。長期間の航海では大量の食料を貯蔵することになります。食料から食品害虫が発生するという現象は珍しいことではなかったでしょう。たとえ虫が発生あるいは混入しても、貴重な食料を捨ててしまうことはなく、虫を取り除いて食べていたはずです。船乗りのベンジャミンにとって、ハエが混入したハチミツは驚くものではなかったと思われます。この場面は、ベンジャミンの船乗りとしての生活の背景をさりげなく描くという意味があったのではないでしょうか。

船乗り生活
欧米の航海を描いた小説の中には、パンを食べる前にテーブルに打ちつけて、内部にいるコクゾウムシを追い出す場面を描いたものがあります。ここでいうパンは、現在の食パンのように柔らかいものではなく、保存性が高くかなり硬いパンであったようです。また、イギリスでは航海の間、船乗りがゴキブリを食料として食べたという記録が残っています。船乗りにとって昆虫は貴重な食料のひとつだったのです。

現在では、ホテルのハチミツにハエが混入することは許されないでしょう。映画の舞台は1950年代であり、食品への昆虫混入には、今よりずっと寛容な時代だったと思われ、そういうこともあったかもしれません。
ハリウッドの大スター、ブラット・ピットと食品への昆虫混入の意外な接点を鑑賞できる映画が『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』なのです。




 
参考文献

  • 宮ノ下明大(2011)映画における昆虫の役割Ⅱ,都市有害生物管理1(2):147-161.



 
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