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コラム

2012.12.21 宮ノ下明大
ラッセル・クロウと共演できなかったコクゾウムシ


2004年に公開された映画『マスター・アンド・コマンダー』は、「英国海軍の雄 ジャック・オーブリー」シリーズ(早川文庫)の劇場版で、帆船映画として海洋小説ファンにも評価が高い映画です。アカデミー賞11部門にノミネートされました。

艦長のジャック・オーブリーをラッセル・クロウが演じています。決してハンサムではありませんが、線が太く男らしい演技派のラッセル・クロウにピッタリの役柄です。

2004年に公開映画

この映画の舞台は1805年で、ヨーロッパ全土がナポレオン戦争に巻き込まれている時代です。その当時の激しい海戦の様子や船乗りの生活がリアルに描かれています。
その中の食事の部分で、コクゾウムシが登場する場面があります。航海用の保存食である堅パンを載せた皿の上にいる2匹のコクゾウムシに対して、艦長が、「どちらの虫を選ぶ?」と船医に質問する場面です。
ここでコクゾウムシが出てきた理由のひとつは、艦長のだじゃれ(★)にあるのですが、本コラムでの視点はコクゾウムシです。

船乗りの食事
当時、船乗りが主食としたパンは、小麦粉、エンドウ豆の粉、骨粉で作られた堅いビスケットに近いもので、航海中に必ずコクゾウムシが発生したようです。食事にパンを食べ、そこでコクゾウムシが出てくることは十分にありえた設定と思われます。

2匹のコクゾウムシが映る場面に、私は釘付けになりました。

その虫はコクゾウムシではなかったからです。縦長な胴体で歩く姿とその大きさからみて、コクヌストモドキヒラタコクヌストモドキ終齢幼虫ではないかと思われます。

コクゾウムシ?

リアルな船乗りの生活を描いた映画だけに、ここは本物のコクゾウムシの成虫を使って欲しかったと、残念で仕方ありません。艦長のだじゃれも(★)コクゾウムシでしか成立しないのですから。しかし、航海中に堅パンにコクヌストモドキ類が発生しても不思議ではないと思います。

『邪悪な虫』(エイミー・スチュワート著)によると、アメリカ南北戦争の兵士の堅パン(小麦粉と塩と水で作られた)でもコクゾウムシに悩まされたようです。この本には、堅パンのコクゾウムシグラナリアコクゾウムシではないかという記述がありました。グラナリアコクゾウムシは、コクゾウムシとよく似た種類でより大型の虫です。

共演できなかったコクゾウムシ


『マスター・アンド・コマンダー』の帆船はイギリス船ですが、そこで発生する虫がコクゾウムシだったのか、グラナリアコクゾウムシであったのかは不明です。

この映画でラッセル・クロウと共演したのは、コクゾウムシではなかったのです。

★艦長のだじゃれ:evil(悪)とweevil(ゾウムシ)の発音が似ていることを使ったもの


 
参考文献
  • エイミー・スチュワート(2012)『邪悪な虫 ナポレオンの部隊壊滅!虫たちの悪魔的犯行』,270pp.監訳 山形浩生,訳 守岡桜,朝日出版社,東京.




 
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