【豆知識】

コラム

ノシメマダラメイガの冬の過ごし方

2015.10.30 宮ノ下明大

 

冬は虫の気配が薄れる季節です。主に冬に活動する昆虫もいますが、多くは休眠(越冬)して寒い時期を動かずに過ごしているからです。2009年9月26日、自宅マンションに1匹のノシメマダラメイガの成虫が飛び込んできました。私は成虫を捕らえ、玄米入りの容器に移して、研究室の机の上で観察を始めました。

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成虫が死亡して22日後に、玄米を調べると77匹の幼虫が見つかりました。捕らえた成虫は雌で、玄米に産卵したのです。幼虫を新しい玄米に移し、冬に向けてそのまま観察を続けました。11月19日から12月末までに19匹の成虫が羽化しました(ピークは11/24~28)。次に成虫が羽化したのは、約3ヶ月後の翌年の4月9日で、6月上旬までに45匹が羽化しました(ピークは5/14~18)(宮ノ下・今村,2010)。

2009年9月26日に採集した成虫の次世代の羽化経過(室内環境)

休眠中の幼虫は玄米に潜り、体の周りに薄い繭を作って、全く動くことはありませんでした。9月下旬の成虫の産んだ卵からかえった幼虫は、休眠せず年内に成虫になるものと、休眠して翌年に成虫になるものがいること、そして、家屋内でも幼虫は休眠して翌年羽化することがわかりました。

室内で25℃の長日条件(例えば16時間明期、8時間暗期)で飼育すると、ノシメマダラメイガ休眠せずに成虫になります。過去の研究によれば、幼虫が短日条件(明期13時間以下)と低温(20℃以下)を経験すると休眠が促進されます。休眠するのは、蛹になる前の幼虫(終齢幼虫)です。低温(10~20℃)を長時間経験すると、休眠が解除されます。

玄米の隙間に潜って繭の中で休眠

今回の場合は、室内環境で、昼間は24~26℃ですが10月に入ると短日条件、暖房を停止した夜間は20℃以下となり、終齢まで発育した幼虫は休眠したのでしょう。一部の幼虫は休眠せずに成虫になったと思われます。12月以降、夜間に長時間の低温を経験した結果、翌年に幼虫の休眠が解除され,成虫が羽化しました。もし、野外環境なら気温が低いため発育が遅れ、年内に成虫になれる個体はほとんどいないと思われます。

冬は寝て過ごします

実際に屋外に性フェロモントラップを設置すると、関東地方では少数ですが11月までは成虫が捕獲されます(宮ノ下・佐野,2014)。このときの成虫が卵を産んだとしても、孵った幼虫は低温に耐えられず死んでしまうでしょう。

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参考文献

  • 宮ノ下明大・今村太郎(2010)家屋内で採集したノシメマダラメイガ雌成虫1頭からの次世代の発生数Ⅱ.家屋害虫 32: 65-68.
  • 宮ノ下明大・佐野俊夫(2014)10,11月に屋外の性フェロモントラップに捕獲されたノシメマダラメイガおよびタバコシバンムシの個体数-関東地方8カ所における2013年の調査-.都市有害生物管理 4: 91-96.
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更新日:2019年02月19日