【豆知識】

コラム

超音波が聞こえるノシメマダラメイガ

2016.07.26 宮ノ下明大

 

昼間に行動する昆虫の天敵は鳥類です。では夜間に行動する昆虫の天敵は?それはコウモリ類です。夜行性のガの仲間には、超音波を聞いたり発したりする種類がいます。この能力は、天敵であるコウモリとの駆け引きの中で進化してきたと考えられるのです。

ノシメマダラメイガとコウモリ
ノシメマダラメイガとコウモリ

超音波で獲物を探すコウモリとそれを回避するガ

食虫性のコウモリは、鼻もしくは口から超音波(1秒間に空気中を2万回以上振動する音)をパルス状に発しています。この超音波が飛翔している昆虫の体に当たり跳ね返ってきた反響音を手がかりに、その位置を正確に知り捕らえているのです。ガの成虫にとって、コウモリの超音波を聞くことができれば、その捕食を回避することができます。多くの夜行性のガは、周波数50~70kHzの音波を聞くことができ、この周波数はコウモリの発する超音波と大まかに一致しています。実際にガの成虫は、超音波を聞くと、飛翔経路の変更、飛翔中止による落下、ジグザグ飛翔、歩行の中止などの行動を示します。これらの行動によって、コウモリはガの位置を把握できず、捕食に失敗すると考えられます。

コウモリは超音波で夜行性のガを捕食する
コウモリは超音波で夜行性のガを捕食する

ノシメマダラメイガの耳と発音器官

ノシメマダラメイガ成虫の耳(鼓膜器官)は、腹部腹面(腹部第1節)にあります。空気中を伝わる音波が、鼓膜を振動させ、内部の聴覚細胞を含む感覚子で受信されます。発音器官については、その存在は確かめられていないようです。

ノシメマダラメイガの鼓膜器官
腹部腹面に鼓膜器官がありますが、外側からは見えず、後脚の根元に隠れています。

超音波に対するノシメマダラメイガの反応

性フェロモン」や「餌と幼虫のにおい」を流した風洞を用いて成虫を飛ばし、超音波が「ある場合」と「ない場合」で行動を調べた論文があります(Svenssonら,2003)。その結果、超音波がある場合、雄成虫は「交尾相手」、雌成虫は「産卵場所」に対して到達率が低く、到達時間が長くなりました。超音波を聞いたと思われる成虫は、交尾相手や産卵場所に対する反応が低下したと考えられます。他にも産卵数が減少するという報告もあります(Huangら,2003)。

超音波の実験

超音波で落ちる成虫

風洞実験によると、飛翔するノシメマダラメイガの成虫に95デシベルの超音波(50~70kHz)を当てると床に落ちて、しばらく動かなくなりました(Svenssonら,2007)。この状況はコウモリが身近に迫った最後の手段かもしれません。成虫を自由に飛翔させないという超音波の効果を利用すると、食品貯蔵庫や工場への侵入を防ぐことができるかもしれません。現在、侵入防止をターゲットとした応用研究が始まっています。

謝辞

本コラム執筆にあたり、文献紹介や質問に丁寧にお答えいただいた、農研機構中野亮博士に深く感謝致します。

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参考文献

  • 中野亮(2011)ガ類における交尾と防衛のための発音.昆虫の発音によるコミュニケーション.北隆館,東京,pp87-103.
  • Svensson, G. P., N. Skals and C. Lofsted (2003) Disruption of the odour-mediated mating behavior of Plodia interpunctella using high-frequency sound. Entomological Experimentalis et Applicata. 106: 187-192.
  • Huang, F., B. Subramanyam and R. Taylor (2003) Ultrasound affects spermatophore, larval numbers, and larval weight of Plodia interpunctella (Hubner) (Lepidoptera: Pyralidae). Journal of Stored Products Research. 39: 412-422.
  • Svensson, G. P., C. Lofsted and N. Skals (2007) Listening in pheromone plumes: Disruption of olfactory-guided mate attraction in a moth by a bat-like ultrasound. Journal of Insect Science. 7: Article 59.
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関連情報

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更新日:2019年02月19日