【豆知識】

コラム

食品害虫の飢餓耐性

2016.09.30 宮ノ下明大

 

昆虫は絶食すると、何日間生きるでしょうか?素朴な疑問ですが、案外答えられないものです。幼虫と成虫で違うでしょうし、甲虫や蝶といった種類の違いもありそうです。食品害虫の場合、普通に活動したときの成虫寿命は、種類ごとに大まかな目安を文献で知ることができます。しかし、絶食にどこまで耐えられるのか調べた研究はあまりありません。私は飢餓耐性がわかれば、食品への混入時期推定や、屋内発生した場合の対応の仕方に役立つと考えています。今回は、ココクゾウムシコクヌストモドキの成虫の飢餓耐性を調べた論文(Daglish, 2006)を紹介します。

昆虫は絶食すると、何日間生きるでしょうか?
昆虫は絶食すると、何日間生きるでしょうか?

絶食が昆虫の生存や増殖に与える影響を調べる

ココクゾウムシの成虫30匹を、30℃で0,2,4,6,8日の絶食期間での生存率を調べ、その後小麦に入れて7日後に成虫を回収し、7週間後に小麦から発生した次世代の成虫数を調べました。コクヌストモドキの成虫30匹を、30℃で0,7,14,21,28,35日の絶食期間での生存率を調べ、その後小麦全粒粉に入れて7日後に成虫を回収し、7週間後に小麦全粒粉から発生した次世代の成虫数を調べました。いずれの実験も、湿度55%と70%の複数の条件で行われました。

絶食期間が昆虫の生存や増殖に与える影響を調べるための実験手順
絶食期間が昆虫の生存や増殖に与える影響を調べるための実験手順

絶食が生存率に与える影響

湿度55%では、ココクゾウムシは8日(図1)、コクヌストモドキは28日(図2)で、完全に死亡しました。昆虫の種類によって飢餓耐性は大きく異なることがわかります。湿度70%では、ココクゾウムシは55%よりも生存率が高く、飢餓耐性に湿度の影響がありそうです。一方、コクヌストモドキでは55%よりも生存率は若干低いですが、湿度の影響は少ないと思われました。

ココクゾウムシ成虫の生存率
コクヌストモドキ成虫の生存率

絶食が増殖に与える影響

湿度55%では、ココクゾウムシは4日(図3)、コクヌストモドキは28日(図4)で、次世代の成虫数はゼロとなりました。ココクゾウムシでは、絶食4日では生存率はほぼ100%ですが(図1)、次世代の増殖は全くみられません(図3)。絶食は次世代の増殖の方に強く影響を与えていました。コクヌストモドキでは、絶食の生存率と増殖に与える影響の差は少ないと考えられます。両種とも次世代の個体数は生存率を反映しており、湿度の影響はあまりないと思われました。

ココクゾウムシの次世代成虫数
コクヌストモドキの次世代成虫数

飢餓耐性データの利用

ココクゾウムシコクヌストモドキの飢餓耐性に大きな違いがあることは予想外だったかもしれません。害虫管理において、コクヌストモドキの方が注意を要するでしょう。全く餌のない状況でも多数の個体が長期間生存するからです。一方、ココクゾウムシは4日程度の餌無しが続けば、次世代の繁殖を大きく抑えられるという点で安心できます。穀物貯蔵庫が空になった後に、再び穀物が搬入されてからの害虫の個体数変動の予測にも応用できるでしょう。また、食品への昆虫混入において、食品包装の隙間に入り込んだ両種が発見された場合は(餌がない状況)、その侵入時期推定のためのパラメータとして活用できるでしょう。

コクヌストモドキは飢餓に強く、100%死亡到達には28日かかった
コクヌストモドキは飢餓に強く、100%死亡到達には28日かかった
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参考文献

  • Daglish,G. J. (2006) Survival and reproduction of Tribolium castaneum (Herbst), Rhyzopertha dominica (F. ) and Sitophilus oryzae (L.) following periods of starvation. J. Stored Prod. Res. 42: 328-338.
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関連情報

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更新日:2019年02月19日