【豆知識】

コラム

コクヌストはコクヌストモドキではない

2018.01.10 今村太郎

 

コクヌストという昆虫がいます。穀物貯蔵倉庫、精米所でよく見られ、漢字では穀盗(もしくは穀盗人)と書きます。穀物の害虫と考えられ、我々の「貯穀害虫・天敵図鑑」でも害虫のカテゴリに入れているのですが、捕食者としての性質も持ち、むしろ天敵と考えた方がいいのではという意見もあります(Yoshida, 1975)。コウチュウ目コクヌスト科に属し、本科ではホソチビコクヌストが他に貯穀害虫として知られています。コクヌストは中世後期の愛知県清洲城下町遺跡から出土し(森,2001)、また江戸時代にシーボルトとビュルガーが収集した標本にも含まれ(Sawada, 2000)、古くから日本に生息していたと考えられています。

コクヌストとホソチビコクヌスト

一方、コクヌストモドキという名前の昆虫がいます。コクヌストと同じコウチュウ目に属しますが、ゴミムシダマシ科に属し、科のレベルで分類群が異なります。精米所などでよく見られる害虫であるとともに混入異物としても問題となり、現在の害虫としての地位はコクヌストよりはるかに高いです。漢字でコクヌストモドキは擬穀盗と書き(高橋,1931)、コクヌストに似ているが違うものという意味です。「コクヌストモドキ」はコクヌストモドキと分類学的に近い昆虫であることを示す語として昆虫の名前に用いられ、我々の図鑑では、ヒラタコクヌストモドキカシミールコクヌストモドキを紹介しています。これらのコクヌストモドキ類の体長はいずれもコクヌスト(1cm弱)の半分程度かそれ以下です。

コクヌストモドキ類

さて、コクヌストを検索語にして最大手の検索サイトで検索すると、調べたいはずのコクヌストがほとんどヒットせず、コクヌストモドキ類の情報で検索結果が占拠されてしまっていました(2017年12月8日現在)。害虫としての地位が違いますから多少は仕方がないと思いますが、占拠されてしまうのはいかがなものかと思います。

この「コクヌスト(穀盗)」は、コクヌスト科の昆虫であることを示す語としてだけではなく、穀物貯蔵倉庫、精米所などで発生するコウチュウ目の貯穀害虫を示す語としても以前は名前に用いられていました。例えば、ホソヒラタムシ科ノコギリヒラタムシの旧名はノコギリコクヌスト(鋸穀盗)、ヒラタムシ科カクムネヒラタムシはカクムネコクヌスト(角胸穀盗)という具合です(高橋,1931)。コクヌスト同様、平たい形の甲虫に対して用いられていたように思います。これらの体長は更に小さく、3mm以下になります。

ノコギリヒラタムシトカクムネヒラタムシ

ちなみに古い文献を見るとコクヌストはオオコクヌスト(★)と書かれていることがあります(高橋,1931)。こういった名前になった理由について解説した文献がないか探したのですが、よく分かりませんでした。それで、単なる私の推測になるのですが、もしかしたら平たい形の貯穀害虫を漠然とコクヌストと呼んでいたのではと思います。その中で、サイズの大きくて目立つ現在のコクヌストが代表として選ばれ、コクヌストもしくはその大きさからオオコクヌストと呼ばれるようになり、またその属する科がコクヌスト科になり、他の貯穀害虫もその形態などを示す語をコクヌストにつけたものが名前として使われるようになったのではないかと思います。

さまざまな昆虫の名前の元として使われてきたコクヌストそのものにインターネット上でももう少し有名になって欲しいと願わずにはいられません。

備考

★ 現在、オオコクヌストはコクヌスト科の別種の名前に使われています。コクヌストよりもサイズが大きく(12-19mm)、マツの樹皮下で生活し、捕食者として知られています。古い図鑑でも、こちらをオオコクヌストとし、現在のコクヌストコクヌストもしくはナミコクヌスト(ナミコクヌスット)としているものもあります(松村,1931;内田,1932)。

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参考文献

  • 松村松年(1931)日本昆虫大図鑑.刀江書院,東京,p.1497, 191.
  • 森勇一(2001)先史~歴史時代の地層中より産出した都市型昆虫について.家屋害虫 23: 23-40.
  • Sawada, Y. (2000) A list of Japanese Insect Collection by P. F. von Siebold and H. Burger preserved in Nationaal Natuurhistorisch Museum, Leiden, the Netherlands. Part 2. Coleoptera. 北九州市立自然史博物館研究報告 19: 77-104.
  • 高橋奨(1931)米穀の害虫と駆除予防.明文堂,東京,p.202.
  • 内田清之助ら(1932)日本昆虫図鑑.北隆館,東京,p.2241, 15, 123.
  • Yoshida, T. (1975) Predation by the cadelle Tenebroides mauritanicus (L.) (Coleoptera, Ostomidae) on three species of stored-product insects. 岡山大学農学部学術報告46: 10-16.
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関連情報

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更新日:2019年02月19日