【豆知識】

コラム

モモとリンゴで発育するコクゾウムシ

2018.07.05 宮ノ下明大

 

コクゾウムシはお米の害虫だというイメージが強いと思いますが、トウモロコシ、コムギ、パスタ、干し芋、ドングリでも発育できます。時々、自分の常識を疑ってみた方がいいかもしれません。最近、モモとリンゴの果実の中に卵を産み、成虫まで発育するコクゾウムシの論文を読みました。水分の高い果実を食べて発育するフルーツ害虫としてのコクゾウムシの写真は、私にとって驚きでした。

コクゾウムシがモモやリンゴの害虫に?

モモとリンゴで発育試験

著者らは、100個のモモとリンゴを用意し、それぞれに4匹の交尾済みの雌成虫を表面に放しました。放してから3~5日の間に、コクゾウムシは果実に産卵しました。その中の2個の果実について、産卵部位と幼虫の発育を顕微鏡で毎日観察しました。発育条件は、温度25℃、湿度70%、日長:明期14時間,暗期10時間です。

その結果、モモでは平均47.4日で、リンゴでは45.1日で成虫になったのです。しかし、羽化率は悪く、観察したそれぞれ2個の果実から、モモでは1匹だけが羽化し、リンゴでは複数が羽化したが死亡しました。各発育段階での発育期間を表に示します。同時にトウモロコシでも調査したところ平均38.2日でした。

モモ、リンゴ、トウモロコシにおけるコクゾウムシの発育

ブラジルの果樹園での被害

南ブラジルでは、モモやリンゴの果樹園にコクゾウムシが現れて収穫前の果実に被害が出ていることが、上記論文の発育試験の背景にあります。別の論文の果樹園でのトラップ調査からは、モモ果実では収穫の3~4週間前から、リンゴ果実では7週間前からコクゾウムシの捕獲が報告されました。今回の発育日数から考えると、果実収穫前にモモでは成虫になれず、リンゴでは成虫になれます。

フルーツコクゾウムシの謎

果樹園に飛んでくるコクゾウムシは、どこから来るのでしょう。そして、リンゴ園で羽化したコクゾウムシはどこに行くのでしょうか。論文には何も記されていません。南ブラジルでは、トウモロコシとフルーツの間を成虫が移動しているのかもしれません。論文では、モモやリンゴに産卵し発育する行動は、本来の食物が欠乏したときに、その代替食物として利用する適応行動と書かれています。それが、成虫の食物ではなく、幼虫が発育し羽化まで可能であることは、穀物とは別の食物を利用する新しい系統の出現かもと考察しています。

日本では、春季にイチゴに飛来するコクゾウムシの報告がありますが、イチゴに産卵するかどうかは不明です。私は早速リンゴを購入し、日本のコクゾウムシを放してみました。果たして結果はどうなるでしょうか。

【上にもどる↑】 

参考文献

  • Nornberg et al (2018) Unusual behavior of oviposition and development of Sitophilus zeamais (Coleoptera: Curculionidae) in peach and apple fruits. Phytoparasitica 46: 69-74.
  • Nornberg et al (2013) Population dynamics and distribution of Sitophilus zeamais in peach and apple orchards. Pesq. Agropec. bras., Brasilia 48: 358-364.
【上にもどる↑】 

関連情報

【上にもどる↑】 

更新日:2019年02月19日