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食の広場

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第6話 『やります!ダイエット』

 夏、真っ盛り。わたしたちの学校でも毎日のように水泳の授業をやってます。この前、勇太たちったら私たちのプールをのぞいてたんで、文句を言ってやったんです。そうしたら「おまえ、ちょっと太ったんじゃない?」だって。こうなったらダイエットでもして勇太たちを見返してやるんだから。

ともよ「おじゃまします。」

先生「あら、いらっしゃい。話は電話で聞いているけど、あなたがダイエットをやっているって娘かしら。」

優子「いいえ、私の方なんですけど・・・。」

先生「ああ、それはどうも失礼しました。それにしてもあなたたちどっちも、ダイエットが必要なほど太ってるようには見えないんだけど。一体、何かあったの?」

ともよ「実は同じ班の男子が優子ちゃんの水着姿を見て、『太ったみたい』なんて言ったんですの。」

先生「なるほどねー、それであなたもその男子たちの言ったことを真に受けたってわけね。そんなの無視すればいいのよ。」

優子「そうは言っても、もし本当だったら、私にとっては大問題なんですよ。」

先生「だったら調べてみる?靴下を脱いで、そこの体重計の上に立ってごらん。」

優子「これでいいですか?」

先生「OK。身長は?、」

優子「150cmです。」

先生「だったらBMIは20ぐらいね。うーん、体脂肪率もそんなに高くないし、ダイエットの必要なんか全くなし!」

優子「なんだー。そうだったのかー。」

ともよ「その『BMI』って何なのでしょう。」

先生「身長と体重からある計算式を使って出す数字で、これが22ぐらいのときがもっとも健康的なことが統計でわかっているの。でも『かくれ肥満』っていって、この数値が正常でも内臓の回りに脂肪がたくさん付いている例があるから、注意が必要ね。」

優子「それにしても、どうしてちょっと油断すると体重って増えてしまうんでしょうね。」

先生「私があなたたちの年齢の頃もそうだったけど、お昼ご飯を食べてちょっとたつとお腹がすいてくるのよね。だから学校帰りに近くのクレープ屋なんかでよく買い食いをしてたんだけど、実はそういう間食がブタの元なんだよね。」

ともよ「そういえば優子ちゃん、昨日もチョコミントアイスとバニラアイス、2つも食べていましたわよね。」

優子「だって、あの店のアイス、とってもおいしくて、どっちがいいか決められなかったんだもん。」

先生「その気持ちはよーくわかるけど、生活していくのに必要なもの以上にカロリーを取ると、それは脂肪なんかの形で体の中にたまっていくの。年齢なんかによっても違うけど、一日あたり男性で1600カロリー、女性で1300カロリー程度が減量中でも必要といわれているのよ。だから3食の食事でバランスよく必要にして十分なカロリーを取るのが理想的ではあるわけ。」

優子「でもそれが難しんですよね。」

先生「体の中には『白色脂肪細胞』っていうものがあって、この中で脂肪酸とか糖なんかを原料にして脂肪が作られているの。そうすると油がたまることで細胞の大きさが大きくなって行って、肉の油身みたいな塊になるのよ。」

優子「じゃあ、この細胞の数を減らすと太りにくくなるってことですか?」

先生「まあ、そういうことにはなるけど、ダイエットで脂肪を減らすというのは、むしろ細胞の中の油の量を減らすということなの。ちなみにこの脂肪細胞の数が増える時期は一生のうちに3回しかなくて、妊娠末期と生後一年未満の赤ちゃん、それとあなたたちぐらいの13-15歳の頃なの。こういう時期に栄養を取りすぎて脂肪細胞の数を増やしてしまうと、後々にも太りやすい体質になるから注意してね。」

ともよ「やはり学校帰りのアイスは一個で我慢しないといけないのかもしれませんわね。優子ちゃん。」

優子「それって、ちょっと残念。ところで、一回ついちゃった脂肪ってなかなか取れないって、うちのおねーちゃんも言ってたんですけど、これってどうやったら取れるんですか?」

先生「これは油をエネルギーとして燃やしてしまうしかないのよね。実は脂肪細胞の中には『褐色脂肪細胞』っていうのもあって、脂肪を燃やす働きがあるの。だから『有酸素運動』っていって、ジョギングとかエアロビみたいに、たくさんの酸素を取り入れながら体を動かすのがいいといわれているの。でもこれもやり方を工夫しないとあまり効果がないから注意が必要ね。」

ともよ「といいますと?」

先生「人間の体の中には『グリコーゲン』といって、脂肪よりも燃えやすい燃料が蓄えられているの。だから始めから激しい運動をすると脂肪が燃える前に疲れてしまうのよ。」

優子「じゃあ、わたしがやっていたジョギングも効き目がなかったかもしれないってこと?」

先生「残念ながらその可能性もあるわよ。体にあまり負担をかけないで長時間、運動を続ける方がいいし、褐色脂肪細胞の働きは温度の低い方が活発だから、水泳なんかいいかもしれないわよ。あと、ハードなダイエットを何回も続けるとやせにくくなる、ってことは聞いたことがあるかしら。」

ともよ「いいえ。」

先生「運動をしているときには体を活発に動かすために交感神経系のホルモンが出ていて、これが脂肪細胞の表面につくと燃料として使うために脂肪が細胞の外に出るようになっているの。でもダイエットのやりすぎはこのホルモンの効き目を弱くするから、結局、やせにくくなるわけ。」

ともよ「やっぱり急なダイエットはいけない、ってことですね。」

先生「そういうこと。あと『油を食べると太る』って思いがちだけど、おもしろいことに『ある種の料理油とか魚に入っている油が、もしかするとダイエット効果をもつかも知れない』っていう研究結果が出ているのよ。」

優子「それってちょっと興味があります。」

先生「『いくら餌を食べても満足しない』マウスっていうのがいて、アメリカのフリードマンという学者が、一体何が原因なのか調べたの。すると『レプチン』という物質が体の中で作られないから、食欲が低下しないことがわかったの。レプチンが褐色脂肪細胞を活性化させると余計なエネルギーが熱になって出ていくから肥満防止にも役立つわけ。」

優子「へー。」

先生「そこでラットを種々の油が20%も入った餌で飼育して、脂肪細胞の中で何が起きているのか調べてみたの。そうしたらエゴマ油や魚油などを食べさせたもので、レプチンを作る遺伝子が活発に働いていることがわかったのよ。この他にも糖や脂肪酸から脂肪を作るのに必要な遺伝子の働きも変化していたし、なんと体の脂肪の量も減っていたの。」

優子「それって、もしかしたら油を飲んでダイエットできるってことですか?」

先生「これはラットを使った実験だから人間でどうなるかはわからないし、何事もほどほどっていうのが一番だと思うけど。」

優子「じゃあやっぱりお菓子をあきらめるしかないんだ。」

ともよ「そうみたいですわね。」

--博士からのコメント--

 動物はいつでも餌が食べられるわけではないために、栄養を体内に蓄える仕組をもっています。人間も例外ではなく、取りすぎた栄養を脂肪の形で貯蔵するメカニズムをもっています。過剰に油や炭水化物を食べると脂肪がたまり、特にこれが内臓の周囲につくと『かくれ肥満』になります。肥満の解消のためには適当な運動とカロリー制限が行われますが、この効き目が悪い人も中にはいます。カフェインテストという方法によって、こういう人は褐色脂肪細胞の働きが悪いことがわかっています。
 あるエゴマ油や魚油、あるいはγ-リノレン酸を多く含む油をラットに食べさせて、その脂肪細胞中で生じた種々の変化を測定した結果、レプチン遺伝子などの働きが活発になることで脂肪を減らす働きが強化されていそうなことが判明しました。さらにこの実験によって脂肪重量や血清脂質濃度も下がることが確認されています。

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