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食の広場

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第9話 『野菜は健康にいちばん』

優子「あら、ともよちゃん、それは?」

ともよ「ビデオカメラですわ。文化祭の取材ということで持ってまいりましたの。」

勇太「おっ、ここだな。こんにちはー。」

先生「やあ、いらっしゃい。話は聞いているよ。じゃあ、まずはこれから見てもらおうかな。」

勇太「これって紫キャベツですね。これがどうしたんですか?」

先生「普通、キャベツの色は緑色だけど、これはどうしてこういう色をしているか知っているかい?」

勇太「何か紫色のものが入ってるから?」

先生「そう。ピーマンとか他の野菜にもいろいろな色がついているものがあるけど、それは、それぞれの色のもとになる成分を、中にもっているからなんだね。」

陽一「それって「色素」っていうんでしょう。お酢や重曹を入れると色が変わるっていう実験を、学校の理科の時間にやりました。」

先生「そういう色素もあるね。これはpHが変わると色が変わるってことだけど、野菜の緑色のもとになっている成分みたいに、塩を入れると熱をかけても色が変わりにくくなるものもあるんだ。」

優子「ちらし寿司に入れるレンコンを茹でる時、お酢が入った水に漬けますけど、レンコンの茶色はお酢の酸にあうと白い色になるんですか?」

先生「これはちょっと複雑なんだ。茶色い色の元になる成分は、酸性側で透明、アルカリ性側で黄色なんだけど、この成分がたくさんくっつきあうと、茶色い色の別のものに変わるんだよ。これを「褐変」と言うんだけど、このくっつく反応には、それを起こすための酸素と、それをスピードアップさせるもの(オキシダーゼ)が必要なんだ。お酢につけるというのは、オキシダーゼの働きを押さえて、褐変のスピードの方をゆっくりにするという意味もあるんだよ。」

勇太「なるほど、ちゃんと意味があったんですね。」

先生「多分、昔の人は経験的にいい調理方法を見つけ出してきたんだろうけど、こういう風にそれぞれの色素がもっている性質を知っていると、お料理を作るときに、きれいな色を出すことができるわけだね。むいたリンゴの色止めには塩水につけるといいというのもその一つだけど、これがどうしてなのかは自分たちで調べてみてね。」

ともよ「わかりました。ところで、その野菜の色がいろいろと体にいい働きをしている、と聞いたことがあるんですが、それって本当なのでしょうか。」

先生「たとえばその一つに、「抗酸化作用」っていわれているものがあって、最近、話題になっているようだね。」

勇太「『抗酸化作用』・・・?それって何なんですか?」

先生「そうだね...君たちの中に何かスポーツをやっている人はいるかい?」

勇太「僕はサッカー部に入ってます。」

陽一「勇太くん、この前の地区予選大会じゃあ大活躍だったんですよ。」

勇太「だって、ボールは友達だからね。」

先生「それは大したものだね。君がゴールに向かって走っているとき、君の体の中じゃあ、エネルギーのもとになるものを燃やしているわけだけど、困ったことにその時に「活性酸素」というものができているんだ。」

優子「それって空気の中に入っている普通の酸素とは違うものなの?」

先生「一言でいうと、体に与える害がより大きいんだ。具体的には細胞膜や遺伝子に傷をつけたりして、最終的には老化やガンの原因にもなると言われている。」

陽一「恐いですね。じゃあ、あまりスポーツはやらない方がいいの?」

先生「いや、普通にやっている分にはもちろん体にいいんだ。人間の体の中には活性酸素を消す仕組みもちゃんとあるし。」

ともよ「ちょっと安心ですね。」

先生「さっき、レンコンが茶色になる話をしたけど、これは実はレンコンに入っている成分が、自分の周りにある活性酸素をどんどん食べているってことなんだ。このように、自分が他のものに変わりながら周りの活性酸素を減らす働きを「抗酸化作用」、その作用をもつものを「抗酸化物質」とって呼んでいるんだ。」

優子「私、聞いたことあります。たしかトマトのリコペンとかニンジンのベータカロチンとかでしょう。」

先生「さては君も昨日の夜、あのTV番組を見ていたね。この他にも『カテキン』っていうのもあるんだけど、君たちは聞いたことがあるかな。」

勇太「お茶に入っているやつですね。そういえば昨日飲んだスポーツドリンクにも入っていたような気が。」

先生「これは「フラボノイド」っていう抗酸化物質の一種で、紫キャベツに入っている「アントシアニン」とかタマネギに入っている「ケルセチン」もフラボノイドの仲間なんだ。」

優子「じゃあ、この「抗酸化作用」をたくさんもっているものを食べると老化やガン予防になるってことですか?」

先生「それはちょっと単純すぎるかも知れないけど、少なくともフラボノイド類については、紫外線とか活性酸素が生み出す毒物が遺伝子に傷を付けることを防ぐ効果があるということがわかっているんだ。老化やガンの第一ステップは、遺伝子に傷がつくところと言われているので、もし口から入ったものがきちんと吸収されて細胞の必要な場所まで届いているとすれば、もしかすると効き目があるかもしれないね。」

陽一「すごいですね。他にはなにかありますか?」

先生「ガン細胞というのはもともと普通の細胞と同じものなんだけど、ある日突然、周りを無視してどんどん増えはじめてしまうんだ。だから普通の細胞と同じように、役割が終ったり、異常を起したときに自然死(アポトーシス)するように戻せればガン予防になるよね。そこで、白血病のもとになる細胞と皮膚ガンのもとになる細胞にいろいろな野菜の成分をかけてみて、普通の細胞に戻るものを探したんだ。」

ともよ「それでなにかいいものが見つかったのでしょうか。」

先生「ナスやほうれん草に含まれる成分や、リンゴに含まれるフラボノイドの一種(フロレチン)に効き目がありそうなことがわかったんだよ。」

優子「そういう働きをもっているのはフラボノイド類だけなんですか。」

先生「いや。シュンギクとかゴボウには、それらとは違う種類の抗酸化物質が入っているということも、最近わかってきたんだ。」

ともよ「いろいろな野菜に、活性酸素から身を守るものが含まれているんですね。」

勇太「俺、野菜、嫌いだけど、我慢して食べるようにしようかな。まだ年寄りになりたくないし。」

先生「おいおい、君はまだ中学生だろ」

--博士からのコメント--

 最近、「活性酸素」という言葉をよく聞くようになってきました。その害から体を守る「抗酸化物質」を配合した清涼飲料水も販売されています。
 野菜の中には種々の抗酸化物質が含まれています。それは、遺伝子に傷が入ることで生ずる突然変異の発生を抑制するのみならず、白血病細胞やメラノーマ細胞(皮膚癌の細胞)を普通の細胞に戻す働きを持ち、また紫外線から細胞を守る働きや皮膚の色素であるメラニン生産をコントロールする作用があることも分かってきています。ただし、これらは試験管内の実験であり、それが本当に口から入ったときにうまく作用するかどうかについては、より詳細な研究が必要です。

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