16 牛の空腸漿膜面における肉芽組織形成と脂肪壊死,膵臓のチモーゲン顆粒の減少 〔村山丹穂(茨城県)〕

 黒毛和種,去勢,11カ月齢,鑑定殺例.2009年2月に導入した子牛が,3月3日より,発熱,食欲不振,歯軋りを呈した.治療を行ったが削痩,予後不良と判定され,4月21日に鑑定殺された.

 剖検では,第一胃背嚢右側面に広範囲な脂肪組織の硬化がみられ,硬化部は周囲小腸と融合していた.硬化部に割を入れると黄緑色泥状物の貯留がみられた.硬化部直近の第一胃粘膜にはピンポン玉大の白色嚢腫が散発していた.十二指腸と膵臓の一部は硬化部に取り込まれ,確認できなかった.第一胃から結腸まで内容物はみられなかった.その他,腹水貯留,肝臓の褪色及び胆汁の高度貯留等が認められた.

 組織学的には,腹腔内に観察された硬化部(提出標本)では,肉芽組織形成と脂肪壊死が認められ,肉芽組織の中心には液化壊死が観察された(図16).液化壊死部と肉芽組織の境界には好中球浸潤がみられた.肉芽組織は直近の空腸奬膜と連続しており,空腸奬膜は顕著に線維性肥厚していた.空腸壁では,部分的に筋層から粘膜下組織に及ぶ線維化が観察された.鍍銀染色標本において,壊死部で膵腺房様構造を確認することはできなかった.膵臓(提出標本)ではチモーゲン顆粒の減少がみられた.

 病原検索では液化壊死部より Arcanobacterium pyogenes が分離された.

 本症例の腹腔内病変は,その分布と液化壊死が顕著であったことから,膵臓の壊死と膵液漏出によると推察された.以上より,疾病診断名は,牛の腹膜炎・脂肪壊死(膵壊死を疑う)とされた.

牛の空腸漿膜面における肉芽組織形成と脂肪壊死,膵臓のチモーゲン顆粒の減少