33 豚の Salmonella Choleraesuisによる線維素性血栓形成を伴う間質性肺炎 〔熊谷芳浩(岩手県)〕

 交雑種,去勢,90日齢,鑑定殺例.母豚230頭規模の一貫経営農場において2008年6月の6日間に80〜90日齢の肥育豚240頭中20頭が,発熱(40〜41℃),血液を混じた泥状ないし水様下痢,並びに耳介と下腹部皮膚のチアノーゼを示して死亡した.本症例は瀕死期に安楽殺された1頭である.

 剖検では,胃腸壁は弛緩し,回腸から結腸部の粘膜に暗赤色の滲出物が付着していた.肝臓は腫大して被膜下に小型白色巣が多発し,肺の全葉に小硬固巣が密発していた.腎臓の皮質には暗赤色巣が多発し,腸間膜リンパ節と気管気管支リンパ節は顕著に腫大していた.

 組織学的には,肝臓にチフス様結節が多発し,肝細胞の凝固壊死及び線維素性血栓が認められた.一部の結節では,周辺部に多核巨細胞が散在していた.肺(提出標本)の広範な領域には間質性肺炎病巣が認められ,肺胞中隔はU型肺胞上皮細胞の肥大と過形成及び炎症細胞の浸潤により顕著に肥厚していた(図33).浸潤細胞はマクロファージ,リンパ球及び少数の好中球から成り,病巣内の毛細血管と小血管内に線維素性血栓がしばしば観察された.免疫組織化学的にサルモネラO7抗原(デンカ生研(株))が肝臓及び肺病巣部のマクロファージに証明された.豚繁殖・呼吸障害症候群ウイルス(PRRSV)抗原(RTI)は肺に認められなかった.腎糸球体,赤脾髄及びリンパ節の皮髄境界域に線維素性血栓を伴う線維素化膿性炎が観察され,回腸から結腸に至る粘膜にはカタル性炎あるいはび爛がみられた.

 病原検索では,主要5臓器から Salmonella Choleraesuisが分離された.PCR法により肺からPRRSV遺伝子は検出されなかった.

 本症例は豚サルモネラ症と診断され,分離菌が肺病変の主要因と推察された.

豚のSalmonella Choleraesuisによる線維素性血栓形成を伴う間質性肺炎