42 分娩直後の豚の腹大動脈の解離性動脈瘤 〔加古奈緒美(愛知県)〕

 ランドレース種,約1歳,鑑定殺例.母豚約120頭を飼養する一貫経営農場で,2008年8月3日に正常に初産分娩した繁殖母豚が,分娩後に体表の出血を呈した.8月6日から治療のための投薬が行われたが,状況の改善がみられず,8日に病性鑑定に供された.

 剖検では,肩から肋にわたる部分や大腿部の体表に両側性の帯状出血や点状出血が認められた.腹腔内には右側腎門部及び子宮角間に鶏卵大の血塊が数個存在し,結腸及び膀胱漿膜に小指頭大の出血斑が多発性に認められた.体表,胸腔内及び腹腔内リンパ節は血液吸収を呈していた.

 組織学的に,腎臓に近接する腹大動脈(提出標本)では,血管壁の著しい出血と,内膜直下において内腔に隆起するように血腫の形成が認められた.血腫部分では血管壁の固有構造は崩壊し,多量の赤血球に混じって弾性線維が散在し,平滑筋細胞も断片的に認められた(図42).腹大動脈周囲の結合組織では,多発性の線維素血栓形成と散発的な小動脈の血管炎が認められた.エラスチカワンギーソン染色により,血腫部分の弾性線維は,断裂や伸張を呈していた.その他の臓器では,膀胱の筋層間質や被膜及び盲結腸の粘膜下織に高度な出血が認められた.また,心筋間質や盲結腸粘膜下織では小動脈壁が肥厚して内腔狭窄を呈するものが認められた.

 主要臓器の細菌学的検査で病原細菌は分離されなかった.

 本症例は,当該豚が出血傾向にあったために発生した可能性が高いとされた.

分娩直後の豚の腹大動脈の解離性動脈瘤