黒毛和種,雄,12日齢,鑑定殺例.搾乳牛24頭,育成牛6頭,子牛8頭を飼養する農場で,平成20年11月20日生まれの子牛が,生後から起立不能を呈した.初乳摂取及び加療をしたが起立せず,12月2日に予後不良と判断され鑑定殺された.母牛に異常産関連ウイルスのワクチン接種は実施されていなかった. 剖検では,脊椎のS字状彎曲,右肩部に腫瘤物の形成,全身筋肉の褪色が認められた.その他の臓器に著変は認められなかった. 組織学的には,延髄(提出標本)において,中等度の囲管性細胞浸潤,グリア結節の散在並びに神経細胞体の変性が認められた(図7).また,わずかに空胞形成も観察された.同様の病変は間脳から脊髄及び小脳髄質に認められたが,延髄及び中脳で顕著であった.また,骨格筋(腫瘤物)における軽度の好中球,リンパ球浸潤を伴う筋線維の変性・壊死及び萎縮が認められた.その他の主要臓器,胃,腸等に著変は認められなかった.抗アカバネウイルス(AKAV)家兎血清(動物衛生研究所)を用いた免疫組織化学的検査では,変性した神経細胞の細胞質内に陽性抗原が認められた. 主要臓器,脳及び右肩部腫瘤について細菌学的検査を実施した結果,すべて分離陰性であった.AKAVに対する中和抗体価は,当該牛血清512倍(初乳摂取済み),母牛分娩前血清2倍未満,分娩後血清16倍であり,AKAV,アイノウイルス,チュウザンウイルス,牛ウイルス性下痢ウイルスの遺伝子検索は,すべて陰性であった. 以上から本例は牛のアカバネ病と診断されたが,脳炎と同時に体形異常が認められた原因については特定できなかった. |