8 豚エンテロウイルスAの関与が疑われた非化膿性灰白質脳脊髄炎 〔篠川有理(新潟県)〕

 WLD種,雌,2カ月齢,死亡例.母豚240頭規模の一貫経営農場において,2008年9月頃から約2カ月齢の肥育豚に四肢麻痺など神経症状を呈する死亡例が散発した.2009年4月までに計24頭が発症したため,3頭について病性鑑定を実施した.本症例はそのうちの1頭である.

 剖検では心嚢水が軽度に貯留していた.体表リンパ節が暗赤色を呈し腫大していた.

 組織学的に,延髄及び胸部脊髄(提出標本)の灰白質を中心に囲管性細胞浸潤,グリア結節が認められた(図8).同様の所見が大脳,小脳,脳幹部,腰部脊髄にも観察されたが,病変は延髄及び胸部脊髄で強く,大脳では軽度であった.提出標本では壊死,神経細胞の腫大,中心性虎斑融解も散見された.また,頚部脊髄神経節において神経細胞の壊死,単核細胞浸潤が認められた.その他の臓器に著変は認められなかった.

 病原検索では,大脳,小脳,延髄から豚エンテロウイルスAが分離された.細菌学的検査では主要臓器から病原細菌は分離されなかった.

 本症例は病変部から豚エンテロウイルスAが分離されたが,本ウイルスの病原性が不明であること,免疫組織学的検査等による病変部におけるウイルスの関与が確認できていないことから,「豚エンテロウイルス性脳脊髄炎を疑う」と疾病診断された.

豚エンテロウイルスAの関与が疑われた非化膿性灰白質脳脊髄炎