23 牛の間質の線維化を伴った慢性糸球体腎炎 〔石田 剛(福岡県)〕

 ホルスタイン種,雌,30カ月齢,斃死例.乳牛73頭を飼養する酪農家で,2010年1月分娩予定の未経産牛が2009年12月27日に食欲不振,高BUN血症を呈し,輸液と抗生剤治療を続けたが,1月6日に斃死したため,病性鑑定を実施した.

 剖検では,腎臓は左右とも萎縮・褪色し,包膜は剥離困難,表面は粗造で,割面は硬度を増し,皮髄境界不明瞭であった.脾臓には直径20cmを最大に大小の膿瘍が多発し,子宮内には斃死胎子が認められた.

 組織学的には,腎臓の糸球体は萎縮・減数し,残存した糸球体では肥大や周囲の線維化がみられ,PAS染色により,メサンギウム細胞の増殖,糸球体基底膜やボーマン嚢基底膜の肥厚が確認された.尿細管や集合管では,内腔は好酸性液状物の貯留を伴って著しく拡張し,尿細管上皮細胞の腫大や好酸性硝子滴も認められた.間質では,リンパ球や形質細胞を主体とした炎症性細胞浸潤,線維性結合組織の増生がび漫性に認められた(図23).脾臓では,好中球や細胞退廃物からなる中〜大型の壊死巣が散在し,周囲には単核細胞の集簇,線維性結合組織の増生が認められた.肺では水腫,肝臓ではディッセ腔の拡張がみられた.各組織ともグラム染色で陰性菌は認められず,抗 Proteus mirabilis 家兎血清(動衛研)を用いた免疫染色でも陽性反応は認められなかった.

 病原検索では,主要臓器,羊水,胎子から多数の Proteus vulgaris が分離された.血清生化学的検査では,BUN:162mg/dl,Cre:9.3mg/dlであった.

 以上から, P. vulgaris は二次的に感染したものと考えられ,本症例は牛の脾膿瘍がみられた尿毒症と診断された.本症例の糸球体腎炎発生機序に脾膿瘍で形成された免疫複合体の関与が推察された.

牛の間質の線維化を伴った慢性糸球体腎炎