24 牛の Arcanobacterium pyogenes の関与を疑う多発性膿瘍を特徴とする慢性腎盂腎炎 〔水戸部俊治(山形県)〕

 黒毛和種,21カ月齢,去勢雄,鑑定殺.繁殖牛2頭,肥育牛40頭を飼育する農場で,肥育牛1頭が食欲不振にて治療開始.解熱剤,抗生剤の2日間連続投与.解熱するも食欲は戻らず削痩が顕著になった.2週間後,直腸検査にて腹腔内に小児頭大の腫瘤を認め,回復の見込みがなく病性鑑定を実施した.

 剖検では,両側性に腎臓が高度に腫大していた.腎包膜剥離は困難で,腎臓表面には直径2〜5mm大の黄白色膿瘍が密発していた.腎割面では,腎杯が高度に拡張し,悪臭を放ち,血液を混じる深緑色粘液状尿が多量に貯留していた.

 組織学的には,腎皮質領域に多数の膿瘍が認められた(図24).膿瘍中心部は融解,消失していた.その周囲には貪食像を示すマクロファージ,壊死した好中球がみられ,さらにその周囲にはリンパ球,形質細胞及び膠原線維の増生が認められた.腎臓全体では,間質に高度に膠原線維が増生し,尿細管腔が大小不同を示し,まれに細胞円柱,尿円柱を認めた.抗 Arcanobacterium pyogenes 家兎血清(動衛研)を用いた免疫組織化学的染色では,尿道内腔に浸潤するマクロファージに貪食されたグラム陽性桿菌に一致して陽性所見が認められた.

 病原検索では,腎臓内の残尿から A. pyogenes が分離された.その他の臓器から細菌は分離されなかった.血液生化学的検査では,BUN:140mg/dl,Cre:23mg/dlであった.

 以上より,本症例の腎組織で A. pyogenes 抗原は検出されなかったものの,尿道での抗原検出結果から,腎炎の原因は A. pyogenes 感染と考えられた.

牛のArcanobacterium pyogenesの関与を疑う多発性膿瘍を特徴とする慢性腎盂腎炎