39 牛の皮膚真皮の顕著な膠原線維の形成不全 〔梁川直宏(鳥取県)〕

 黒毛和種ET産子,雄,5カ月齢,鑑定殺.繁殖農家で約4カ月齢より体幹皮膚が通常より伸び始め,徐々に頸部にバスケットボール大の漿液性腫瘤を形成し,治療に反応せず,元気食欲が落ちたため,病性鑑定を行った.

 剖検では,鼻鏡部から体幹部の皮膚は破けるほど脆くはないが,きわめて容易に伸張し,触感は猫皮膚様であった.頸部腫瘤は破け,化膿していた.その他臓器,特に関節や血管などに異常は認められなかった.

 組織学的には,皮膚真皮は,膠原線維の形成不全が顕著で,粗造,走行は不規則で渦を巻いていた(図39).間質は水腫性であった.アザン染色で膠原線維は黒く染色され,組成の異常が示唆された.その他,肝に軽度の巣状壊死,第四胃に寄生虫が認められた.皮膚の簡易走査電顕観察では膠原線維束は細く,周囲の線維との絡みが疎であった.また,少数の線維束が螺旋状に絡みあって孤立していた.

 ヒトのEhlers-Danlos症候群(EDS)の病型分類を試みるため,生化学的検査(ニッピバイオマトリックス研究所)を行った.凍結皮膚材料からのコラーゲンを分析した結果,プロコラーゲン量は正常範囲内で,EDS皮膚脆弱型(ZC型)は否定された.また,新生子牛皮膚のアミノ酸分析の結果は,対照牛のそれと差がなかったため,EDS後側彎型(Y型)も否定された.

 原因究明に至らなかったが,以上のことから本症例は,牛の皮膚無力症(ヒトのEhlers-Danlos症候群Y及びZC型には一致しない)と診断された.

牛の皮膚真皮の顕著な膠原線維の形成不全