7 牛の頸部脊髄に限局した接合菌による化膿性髄膜脊髄炎 〔是枝輝紀(鹿児島県)〕

 黒毛和種,雌,28日齢,鑑定殺.繁殖牛30頭飼養する農場で,2009年12月24日に生まれた子牛が生後5日目から起立不能を呈し,水平眼振,両前肢の痛覚の鈍化がみられた.治療を行ったが改善せず,病性鑑定を実施した.

 剖検では,頸部は軽度に湾曲し,頸部脊髄はやや腫大していた.右肺の一部に肝変化が,大腿部筋肉の褪色が認められた.

 組織学的に,頸部脊髄に広範な壊死巣が認められた.壊死巣では神経線維や血管壁の変性・壊死,神経網の粗鬆化が高頻度に認められ(図7A),細胞退廃物や好中球がわずかに認められた.壊死巣周囲には好中球,その外側にマクロファージの浸潤が認められた.クモ膜下腔に細胞退廃物塊が,硬膜にはマクロファージを主体とする細胞集簇がみられた.PAS反応,グロコット染色により,血管周囲域を中心とした壊死巣全域と硬膜の細胞結節に,太さが不均一で不規則な分岐を示し,明瞭な隔壁を持たない菌糸(図7B)が多数確認された.免疫組織化学染色で,菌糸は抗 Aspergillus 抗体(Biogenesis),抗 Candida albicans 抗体(Biogenesis),抗 Rhizomucor 抗体(DAKO)のいずれについても陰性であった.壊死巣及び菌糸は頸部脊髄の一部に限局的に認められ,他の部位や臓器には認められなかった.その他に肺では化膿性肺炎,腎臓の一部では間質性腎炎が認められた.

 病原検索では,肺から Arcanobacterium pyogenes が分離された.真菌分離は行わなかった.

 以上から,本症例は牛の接合菌症と診断された.今回使用した抗 Rhizomucor 抗体は, Rhizomucor 属, Rhizopus 属, Absidia 属に陽性反応を示すことから,その3属以外の病原菌種である Mucor 属が関与したのではないかと思われた.

牛の頸部脊髄に限局した接合菌による化膿性髄膜脊髄炎