8 牛の梗塞性壊死を伴うグラム陰性桿菌による化膿性下垂体炎 〔壁谷昌彦(福島県)〕

 黒毛和種,去勢,27カ月齢,斃死(死後約6時間).2010年3月12日に27カ月齢の肥育牛が食欲不振,元気消失を呈し,3日後の朝,飼料給与中に斃死した.

 剖検では,下顎を中心とした左側頭頸部皮下に広範囲に膿の貯留が認められた.病変は喉頭,耳下腺周囲から下垂体まで及んでいた.左肺後葉に直径約8〜60mmの膿瘍が散見された.

 組織学的に,腺性下垂体主部の中央部に広範囲に境界明瞭な壊死が存在していた(図8A).下垂体の被膜及び周囲の怪網には多発性に血栓がみられ,その周囲の結合組織にはグラム陰性桿菌塊を含む好中球の高度浸潤,出血及び水腫が認められた(図8B).その他,耳下から頸部にかけて出血を伴う蜂窩織炎と血栓形成が認められた.肺では菌塊を伴う大型膿瘍が認められた.

 病原検索では,下垂体,耳下腺及び喉頭周囲の膿から Bacteroides stercoris 及び Bacteroides sp.が,肺から B. stercoris 及び Prevotella sp.が分離された.

 以上から,本症例は,牛の頭頸部の蜂窩織炎(下垂体周囲に波及)と診断された.下垂体の梗塞性病変については,頭頸部病変により血流が停滞したこと,化膿性炎症が血管外膜から内膜に及んだことから,下垂体動脈に血栓が形成されたためと考えられた.下垂体周囲の化膿性炎症は,耳下から頸部の蜂窩織炎が血管及び末梢神経周囲の結合組織を介して波及したものと推察された.

牛の梗塞性壊死を伴うグラム陰性桿菌による化膿性下垂体炎