23 牛の Mycoplasma bovis による小脳の膿瘍 〔別府 成(鹿児島県)〕

 黒毛和種,3カ月齢,雌,鑑定殺.2010年4月10日出生し,2週齢頃から発熱,呼吸器症状を呈し,5月中旬から中耳炎症状が,6月中旬以降に眼球振盪,てんかん症状等の神経症状があらわれ,7月には起立不能となり,病性鑑定を行った.

 剖検では,肺及び胸膜が癒着し,右肺に広範囲の多発性膿瘍があり.左中耳及び内耳が拡張しており内腔に乾酪化した膿汁が充満していた.頭蓋内には赤色脳脊髄液が貯留し,左右大脳表面,左小脳表面に粕状膿塊が付着していた.

 組織学的には,左側小脳の膿瘍では,中心部細胞退廃物の周囲にマクロファージや形質細胞が浸潤していた(図23).また,左側の延髄腹側面にも同様な膿瘍や軟化巣が存在した.大脳の髄膜には形質細胞や好中球が広範囲かつ軽度に浸潤していた.また,肺には大小多数の膿瘍が存在した.

 病原検索では,肺からは Mycoplasma bovis が分離されたが,小脳からは分離されなかった.肺乳剤,中耳,右耳,小脳スワブ液について M. bovisM. bovirhinisM. disparM. bovigenitaliu のPCR検査を行ったところ,全検体で M. bovis の,肺と右耳スワブ液で M. dispar の特異遺伝子が検出された.

 以上の所見から本症例は牛の M. bovis 感染症と診断された.討議の結果,小脳の病変は左耳から伝播したものと考えられた.

牛のMycoplasma bovisによる小脳の膿瘍