35 銅中毒による牛の肝臓にみられた胆汁栓,銅貪食マクロファージ集簇を伴う肝細胞空胞及び水腫性変性 〔高野儀之(山形県)〕

 黒毛和種,11カ月齢,雌,斃死例(死亡後約4時間で解剖).搾乳牛約30頭の飼養農場で,2010年11月13日に県外から導入された1頭が,同年12月6日に茫然佇立して発熱を呈したため,抗生剤投与等による治療が行われた.翌日,赤ワイン様の尿を排泄したため,隔離し,抗生剤投与及び輸血等の加療を行ったが,翌朝斃死した.

 剖検では,全身性の黄疸がみられ,可視粘膜や,剥皮後の皮下脂肪織及び諸臓器も黄色を呈していた.肝臓も黄色化し,胆汁は濃縮していた.腎臓は暗赤色で腫大し,膀胱内には暗赤色尿が貯留していた.

 組織学的には,肝臓においてび漫性に肝細胞の空胞及び水腫性変性が認められた.毛細胆管,小葉間胆管に多数の胆汁栓が認められた(図35).肝細胞内又はクッパー星細胞内に好酸性均質な滴状物がみられ(図35),これらはロダニン法(銅染色)で茶褐色(陽性)を示した.間質のマクロファージにもロダニン法陽性の茶褐色物が多数認められた.腎臓では尿細管上皮細胞内に赤色顆粒(ヘモグロビン)がび漫性に認められた.

 病原検索では,主要臓器及び尿から病原細菌は分離されなかった.血液一般検査では,赤血球数:567万/μl,白血球数:3万/μl,ヘマトクリット値:25.7%.生化学的検査では,AST:530IU/l,GGT:300IU/l,TBIL:17.86mg/dlであった.血清銅263μg/dl(成牛の正常値70〜100μg/dl),肝臓,脾臓の銅含量はそれぞれ584ppm,52ppmと高値を示した(成牛の肝臓の正常値20〜30ppm,成牛の腎臓の正常値5ppm).

 以上のことから,本症例は牛の銅中毒と診断された.

銅中毒による牛の肝臓にみられた胆汁栓,銅貪食マクロファージ集簇を伴う肝細胞空胞及び水腫性変性