38 牛の大腿部骨格筋の変性・壊死 〔岡田綾子(鳥取県)〕

 交雑種,雌,16カ月齢,鑑定殺.肥育牛が2010年9月2日の朝から発熱(体温42度,熱射病様)と起立不能を呈した.抗生物質と輸液により治療しても回復しないため,1週間後に鑑定殺された.

 剖検では,左右後肢の大腿部から下腿部にかけて骨格筋の一部が灰白色を呈していた.病変部と正常部の境界は明瞭で,正常部と病変部がモザイク状に混在していた.また同部位皮下織に軽度水腫を認めた.

 組織学的に,大腿部骨格筋では重度の硝子様変性と石灰沈着,一部変性した筋線維の周囲にマクロファージが浸潤する像や,骨格筋の再生像が認められた(図38).その他に,心筋線維の軽度の硝子様変性,小葉間結合組織の線維化を伴う化膿性胆管肝炎が認められ,脳では前頭葉から延髄・小脳の白質に軽度から中等度に空胞が形成され,特に線条体内包で顕著であった.

 血清生化学的に,肝酵素とCPKの著増を認め,ビタミンA:12.4IU/dl,ビタミンE:76.4μg/dl,セレン:72.3ng/ml,乳酸:33.2mg/dlであった.

 本症例は,暑熱ストレスや胆管肝炎による胆汁分泌障害によるビタミンE吸収障害等が白筋症を惹起したと推察された.しかし,全身骨格筋における病変分布が確認できなかったため,疾病診断名は,原因の特定に至らなかった肥育牛の大腿部骨格筋変性・壊死とされた.

牛の大腿部骨格筋の変性・壊死