43 舌のJunctional Epidermolysis Bullosaが疑われた羊 〔恵美須裕子(奈良県)〕

 サフォーク種,雌,51日齢,鑑定殺.2011年3月末より同一の種雄羊より生まれた子羊数頭において,生後2日前後に,腋窩部,蹄の上方,蹄底部等に脱毛,発赤,潰瘍状病変が確認された.口腔内粘膜にも,生後まもなく発赤,出血が認められた.同居羊,山羊,牛に異常は見られなかった.治療(抗菌剤含ステロイド軟膏)したが回復はみられず症状は悪化した.5月17日に2頭を鑑定殺した.提出例はそのうちの1頭である.

 剖検では,蹄から蹄上部に,痂皮形成,蹄脱落がみられた.舌粘膜全体が容易に剥離した.また,口腔粘膜の出血が観察された.

 組織学的には,舌粘膜上皮は基底層より剥離,一部は欠損し,び爛,潰瘍状を呈していた(図43A).粘膜上皮と固有層間,粘膜上皮内間隙に滲出性変化が観察され,部位によっては多数の好中球浸潤が認められた.粘膜固有層では好酸球浸潤がみられた.また,粘膜上皮の欠損や滲出性変化を伴わない粘膜上皮層の剥離がしばしば観察された(図43B).その他,頬部口腔では,粘膜上皮が剥離し,粘膜固有層に好中球,好酸球の浸潤がみられ.蹄では,表皮の壊死,剥離,真皮における好酸球,好中球浸潤がみられた.

 特定の種雄羊の子羊のみでの発症と舌粘膜上皮の易剥離性より,本症例は先天的な粘膜上皮と粘膜固有層間の接着因子の欠損による羊のJunctional Epidermolysis Bullosaが疑われた.本症例は口蹄疫との鑑別診断上留意すべき疾病であると考えられた.

舌のJunctional Epidermolysis Bullosaが疑われた羊