ニガキ科植物による馬の中毒について

7月17日付けの家畜衛生週報に,「軽種馬に集団発生した糜爛性口内炎を主徴とする疾病について」という記事がありました.当研究室では,本疾病の発生直後から京都中央家保を通じた問い合わせや,当初疑われた有毒物質(結局はシロだった)の分析等を行ってきました.

家畜衛生週報には若干間違いもありますので,修正をしつつ中毒の原因について解説を加えたいと思います.

家畜衛生週報にあるとおり,敷料として使っていたおが屑の原料が有毒植物でした.

おが屑の材料となった木は,ブラジル産で通称「カセッター」(caixeta)と呼ばれているもので,詳しい種名は分かりませんが,ニガキ科(SIMAROUBACEAE)シマルバ属(Simarouba)の植物です.なお,日本のニガキはニガキ科ニガキ属のPicrasma quassioidesで,科は同じですが属が違います.

これらのニガキ科の植物は,苦味質のカッシン(quassin)が含まれています.また,この木の抽出物は殺虫剤として使われていたようで,獣医領域でも抗蠕虫薬として使われていたという記載があります.

ニガキ科のおが屑を敷料に使っていて馬がおかしくなったという症例は二つ報告されています.ひとつは衛生週報に紹介された,アルゼンチンの事例です.原報はこちらにありますのでご覧ください.この症例の原因となった植物は,通称マルパというニガキ科の植物Simarouba amaraで「カセッター」と同じものと思われます.この事例では,糜爛性の口内炎,鼻・口唇・肛門周囲などの乾燥ひび割れ,鼻汁,黄疸などが見られたようです.

もう一つの症例はアメリカで報告されているもので(J. Am. Vet. Med. Assoc. (1995) 207:211-213),これについても原因はニガキ科カシア属(Quassia)のおが屑が原因とされています.アメリカの事例では,鼻の周囲,耳,肛門の水胞性皮膚炎,鼻汁,黄疸が特徴的です.アルゼンチンの事例では食欲不振は見られなかったが,アメリカの事例では一部に食欲不振が見られたということです.

ともかく,ニガキ科木材のおが屑を経口摂取すると糜爛性口内炎,水胞性皮膚炎,黄疸などを主徴とする中毒症状を示し,場合によっては死亡することが明らかになったので注意が必要です.

なお,もう一つのおが屑材料であったアユーズ(Ayous,オベキobecheという呼称の方が一般的のようです.学名はTriplochiton scleroxylon)については,給与試験では異常が見られませんでした.しかし,アユーズ(obeche)についても有毒性が知られていますので注意が必要です.アユーズを扱っていた大工さんなどに,気管支喘息,鼻炎,結膜炎,蕁麻疹などが見られたとの症例が報告されており,オベキに対するIgEも検出されています.

これらの木材がどの程度輸入されているかですが,残念ながら樹種別の統計はないということなので正確な数字は分かりません.

しかし,輸入木材の中で南米からの輸入が占める割合はごく僅かなようですので(日本木材輸入協会)「カセッター」の輸入量はかなり少ないものと思われます.また,アフリカからの輸入も南米に較べたら多いものの僅かなようですので,アユーズの輸入量もさほど多くないものと思われます.

ちなみに,カセッターは家具の内側などに,アユーズは家屋の内装や工作(工芸)用に使われているようです.

(2000.7.24 登録,2001.1.25 最終更新) 

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農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム