エンドファイト中毒

 

「輸入ストローの安全な使い方のパンフレット」  と

「エンドファイト中毒についての注意点」 も見て下さい


エンドファイトとは

エンドファイト(内生菌)は植物体内で共生的に生活している真菌や細菌のことで、endo(within)とphyte(plant)からの造語である。広義には、根粒菌や菌根菌もエンドファイトに含まれるが、一般にはイネ科植物に寄生する麦角病菌科の真菌を指すことが多い。家畜の中毒との関連では、トールフェスクに寄生するNeotyphodium(以前はAcremoniumと呼ばれていた) coenophialumとペレニアルライグラスに寄生するN. loliiが問題となる。

エンドファイトは種々の生理活性物質を産生し、これらの働きによってエンドファイトに感染した植物が病害虫に対して抵抗性になったり、環境ストレスに対して耐性になったりする。このため、植物への有用形質付与にエンドファイトが利用されている。特に芝草はエンドファイトによる虫害防除効果を活用しており、エンドファイト感染種であることが商品価値を高めている。

一方、エンドファイトは動物に有害な物質も産生する。アメリカやニュージランドで問題になっているフェスクトキシコーシス(fescue toxicosis)やライグラススタッガー(ryegrass stagger)は、トールフェスクやペレニアルライグラスに感染したエンドファイトが産生する毒素が原因であることが明らかになっている。

現在、オレゴン州から輸入されているライグラスあるいはフェスクのストローは、芝草用の種子を取ったあとのストローがほとんどであるから、ほとんどがエンドファイトに感染したペレニアルライグラスやトールフェスクのストローであろうと思われる。使用にあたっては十分な注意が必要である。


エンドファイトによる家畜の中毒

トールフェスクによる中毒

ケンタッキー大学で1941年に育種されたケンタッキー31(KY-31)というトールフェスクの品種は、その生育特性から広く使われるようになった。 ところが、これを給与した牛に体重の減少、食欲不振、ひづめの壊死等が見られることが明らかになった。その後の研究で、このトールフェスクには麦角病菌科のエンドファイトが自然感染していることが明らかになった。このエンドファイト( N. coenophialum)が産生する種々の生理活性物質のうち、エルゴバリンが中毒の主要な原因物質であると考えられている(Porter et al., 1981; Yates et al., 1985)。

N. coenophialumに感染したトールフェスクが原因で起こる中毒には、3つの病態がある。

フェスクトキシコーシス(fescue toxicosis)と呼ばれる病態は、エンドファイトが産生する麦角アルカロイドのエルゴバリンが原因物質と考えられている。中毒症状としては、増体量の低下、唾液分泌の亢進、体温の上昇、呼吸数の増加、受胎成績の悪化、泌乳量の減少等が見られる。これらの症状は夏期に顕著に見られるため、サマーシンドロームあるいはサマースランプと呼ばれることもある(Schmidt and Osborn, 1993)。

前述のように、麦角アルカロイドは血管収縮作用を持つため、皮膚からの体熱の放散が阻害されて体温が上昇するものと考えられている。また、麦角アルカロイドのドパミンレセプター刺激によりプロラクチン分泌が抑制され、これにより泌乳量の低下や受胎成績の悪化が起こるものと考えられている(Schillo et al., 1988; Browning-Jr. e at., 1997)。プロラクチンはこのほかにも多様な生理作用を持っているので、その分泌抑制の影響は多岐にわたるものと思われる。さらに、エンドファイトに感染したフェスクの銅含量が低く、これを長期間摂取した動物の血中銅濃度も低下することから、銅欠乏がフェスクトキシコーシス発現に関与しているのではないかと指摘されている。

麦角アルカロイドの共通構造であるリセルグ骨格を認識するモノクローナル抗体で受動免疫すると、低下した血清プロラクチン濃度が速やかに上昇することが示され(Hill et al., 1994)、トールフェスク中の麦角アルカロイドが血清プロラクチン濃度低下の原因であることが確認された。

2番目はおもに冬季に現れるフェスクフット(fescue foot)と呼ばれる病態で、エンドファイトに感染したトールフェスクを採食している牛の耳や尾の先、そしてひづめ等に壊疽が見られる。これは、中世ヨーロッパで、麦角に汚染されたライ麦を食べた人の手足が壊疽になる「聖アンソニーの火」と呼ばれた疾病と類似のもので、麦角アルカロイドの末梢血管収縮作用により、末端部の血行障害が起こるためと考えられている。

最後に、トールフェスクを採食した牛の腹腔脂肪が壊死するファットネクローシス(fat necrosis)にも、エンドファイトの関与が指摘されている。窒素肥料を多く施肥した圃場で生育したエンドファイト感染トールフェスクを給与すると、ファットネクローシスが起こりやすいこと、エンドファイト感染トールフェスク給与により、血中コレステロール濃度が低下すること、さらに、脂肪壊死塊のエーテル抽出物中長鎖脂肪酸量は正常脂肪と同程度であるが、コレステロール量は正常脂肪より3〜4倍ほど高いことなどが報告されている。しかし、エンドファイト関与の有無や発症メカニズムは明確にはなっていない。

ライグラススタッガー

ニュージーランドでは、ペレニアルライグラスを食べた羊が足を硬直させたり痙攣させたりするライグラススタッガーが90年ほど前から報告されていた(Gilryth, 1906)。その原因は長い間不明であったが、多くの研究者によって原因解明の努力が続けられ、ライグラススタッガーを起こすペレニアルライグラスから強い神経毒性を持つロリトレムが単離されるとともに(Gallagher et al., 1981)、ほとんど時を同じくしてライグラスへのエンドファイト(後にN. loliiと同定)感染率とライグラススタッガー発症との関連が明らかになり(Fletcher and Harvey, 1981)、ライグラススタッガーの原因解明が一気に急展開した。

中毒症状は、軽いものでは激しい運動(400 m走)の後に見られる頚部の痙攣から、歩行異常さらに筋の激しい痙攣やテタニー様発作まで、5段階に分類されている(Keogh, 1973)。血液生化学的所見としては、CKおよびAST活性の上昇が報告されている( Pearson et al., 1996)。

ロリトレムの作用機序については、ライグラススタッガーを発症している羊の脳でアスパラギン酸やグルタミン酸などのアミノ酸神経伝達物質の放出が亢進していると報告されている(Mantle et al., 1983)。また、ロリトレムの前駆物質であり同様な神経症状をもたらすパキシリンがγ-アミノ酪酸のアンタゴニストであるともいわれている(Gant et al., 1987)。さらに、パキシリンなどのインドールアルカロイドが平滑筋の"high-conductance calcium-activated potassium channel"を抑制するとの報告もある(Knaus et al, 1994)。その後、Imlach ら(2011)の報告により、ロリトレムBが細胞膜上のカルシウム依存型カリウムチャンネルであるBKチャンネルを阻害することで、細胞膜の興奮抑制が正常に行われず、神経症状が発現することが明らかになった。


 

エンドファイトが産生する生理活性物質 

イネ科牧草に感染するNeotyphodium属エンドファイトの産生するおもな生理活性物質は以下のとおりである。このうち、動物に強い毒性を示すのはエルゴバリンを主とした麦角アルカロイドおよびロリトレムである。

1.麦角アルカロイド類 ergot arkaloids

 

麦角アルカロイドについて 

 

2.インドールイソプレノイド類 indole isoprenoids

 

3.ロリンアルカロイド類 loline alkaloids

4.ペラミン peramine

構造式が間違っていたので修正しました(2006.11.24)

飼料中毒素濃度と中毒症状発現

飼料中のエルゴバリン濃度と中毒症状発現との関連については、オレゴン州立大のCraigらが、全給与飼料中の濃度として500〜825ppb以上で危険というガイドラインを提出している(Craig et al., 1993)。Stammら(1994)も、475 ppbのエルゴバリン給与で中毒症状が見られなかったと報告しているが、一方高温・多湿時には50ppbでも直腸温の上昇が見られたという報告もある(Cornell et al., 1990)。

ロリトレムBについては全給与飼料中の濃度としておよそ1800〜2000 ppb存在するとライグラススラッガーを発症するといわれている(Craig et al., 1993;Rowan, 1993)。ライグラススタッガーの事故が多発するのは、汚染牧野に放牧された羊や牛が高度濃度の毒素を含むペレニアルライグラスを摂取した場合で、ストロー給与での事故報告は少ない(Pearson et al., 1996)。しかし、芝草種ストローでの中毒の可能性がないわけではないので、オレゴン州立大学のストロー利用に関するレポート(Turner et al., 1995)も注意を喚起している。

前述のようにN. loliiはエルゴバリンも産生するので、感染ペレニアルライグラスにはロリトレムのみでなくエルゴバリンも含まれている。しかし、両毒素を同時に摂取したときの影響や、中毒症状発現にこれらの毒素が相加的(あるいは相乗的)に作用するのかどうかについては、いまだ明らかではない。


我が国でのエンドファイト中毒の発生状況

1997年から1999年にかけて、アメリカから輸入されたライグラスストローを給与した牛および馬に、エンドファイトの毒素による中毒と思われる異常が散発した。今回問題となったストローの輸出元であるオレゴン州は、世界有数の芝草種子生産地である。冒頭で述べたように、芝草種のペレニアルライグラスやトールフェスクは、エンドファイトに感染していることが商品価値につながるため、種子生産農家ではエンドファイト感染率の高い品種を栽培する傾向にある。種子を取ったあとのストローはかつては焼却処分されていたが、環境問題等から現在では焼却が禁止されている。そこで、芝草種のストローが安価な粗飼料として日本に大量に輸出されるようになった。芝草種はエンドファイトに高率に感染しているので、ストロー中の毒素の濃度も高いことが当然予想された。事実、我々が問題となったストローを検査したところ、いずれの飼料からもエンドファイト菌糸および比較的高濃度の毒素が検出された。

上述のように、オレゴン大学では、飼料中に1800 ppb以上のロリトレムBが存在すると、ライグラススタッガーが誘発されるとしている。今回我々が経験した事例で給与されていたペレニアルライグラス中のロリトレムB濃度は、972〜3740 ppbであり、この基準値以下の事例も多くあった。しかし、ペレニアルライグラスの給与を停止すると速やかに症状が消失したこと、硝酸塩中毒、チアミン欠乏など、類似の症状を呈する疾病が否定されたことなどから、これらの事例もライグラススタッガーであると判断している。


我が国で発生したエンドファイト中毒の特異性

前述のように、エンドファイトに感染している牧草の方が害虫などに対する抵抗性が強いため、牧野管理上は有利であるし、害虫などに抵抗性の強い品種の牧草を牧野から一掃し、エンドファイトフリーにするには多大な労力を要する。したがって、アメリカやニュージーランドの畜産農家は、エンドファイトがもたらす利益と損失、そして損失を減らすために要する労力を勘案し、現状で折り合いをつけているというのが実状である。

これにたいして我が国の場合は、粗飼料をも多くを海外に依存しており、エンドファイトの感染が明らかな芝草種のストローを安価な粗飼料として輸入したため、中毒事故が発生してしまった。飼料の多くを海外に依存している我が国の畜産の特殊性がもたらした事故といえよう。しかも、輸入ストローがきわめて安価な理由は、畜産農家には知らされなかった。農家への情報提供という点でも、エンドファイトについて一定の情報を持っているアメリカやニュージーランドの状況とは大きく異なる。


類症鑑別(先入観を持たず、他の要因もきちんと検討することが重要)

神経症状を呈するライグラススタッガーの診断にあたっては、同じ様な症状を示す、低マグネシウム血症、低カルシウム血症、チアミン欠乏症(大脳皮質壊死症)、硝酸塩中毒、白筋症、そして可能性は少ないでしょうが一年生ライグラス中毒やBSEなどとの鑑別が必要になります。


当面の対応

アメリカから輸入しているペレニアルライグラスストローやトールフェスクストローはエンドファイトに感染している可能性が高く、これらのストローは、濃度の高低はあってもエンドファイト毒素を含んでいるから、そんなものをわざわざ輸入すべきではない。ただ、現実問題としては、国産稲わらが有効に使えず、中国産稲わらも輸入できない状況にあり、使わざるを得ないという状況にある。

今後は速やかに、国産稲わらの有効利用策と、輸入ストローに対する規制とを併用する形で、本来あるべき姿にしていくべきであろう。

現実には、オレゴン州からだけでも年間およそ40万トンのストローが 輸入されている。これをただちに他の輸入粗飼料や自給粗飼料で代替せよというのは現実的ではない。

まず、輸入業者に対して芝草品種のストローはエンドファイトに感染している可能性が高いことを周知し、購入に際しても十分注意を払うよう求める必要がある。可能であれば、 日本の輸入業者から輸出業者に対して、現地での毒素チェックを指示することも有効であろう。

国内での対応としては、農家ににエンドファイトによる中毒について正しく理解してもらい、輸入ストロー単味での使用を極力避けること、牛の観察を怠らず、疑わしい症状を発見したときは当該ストローの使用を差し控えること、そして家畜保健衛生所に速やかに連絡することなど、適切な対応取るよう指導する必要がある。行政的には,国内での検査体制の確立や安全基準の設定が当面とるべき対応であろう。

 

ところで、我が国で流通している輸入ペレニアルライグラスストローの多くが、イタリアンライグラスのストローと称して販売されてきた(いる)という問題がある。イタリアンライグラス(L. multiflorum)に感染するエンドファイトは種名が未だ同定されておらず、またこの種名未同定エンドファイト感染イタリアンライグラスからは、ロリトレムは微量しか検出されていない。したがって、イタリアンライグラスの給与でエンドファイト中毒が起こる可能性はきわめて低い。しかるに、我々が経験した事例の多くでも、ペレニアルライグラスがイタリアンライグラスとして販売されていた。飼料販売業者には、飼料の素性を正しく表示して販売するよう改善を求めたい。

イタリアンライグラスとペレニアルライグラスの見分け方(2007.3.7更新)


西洋芝の飼料への転用にも注意

上述のように、西洋芝として使われるペレニアルライグラスやトールフェスクは、エンドファイトに感染したものが積極的に使われている。したがって、ゴルフ場の芝を刈ったものを飼料として使ったり、廃業したゴルフ場を採草地や放牧場として転用する場合は注意が必要である。


染色によるエンドファイト菌糸の検出法(2008.7.16更新)

エンドファイト毒素の分析法

 


文献

 

(1997.6.3 登録,2018.2.8 最終更新) 輸入ストローの安全な使い方パンフレットへのリンク追加

 

目次へ戻る

家畜中毒情報トップページへ戻る


家畜中毒情報で提供している情報の無断転載を禁じます。
農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究部門