アメリカ,ニュージーランド,オーストラリアを中心にした牧草による中毒事故の総説

Endogenous Toxins and mycotoxins in forage grasses and their effects on livestock. By Cheeke, P.R., J.Anim.Sci., 1995, 73:909-918.

の抄訳です.

 

 

植物固有の成分による中毒

Phalaris poisoning

北米の水はけの悪い地域では,Phalaris canariensis L. (canarygrass;カナリーグラス)を牧草として栽培している.

カナリーグラスは,少なくとも8種の,インドール核を持つアルカロイドを含んでいる.すなわち,セロトニンとこれと構造の似ている,hordenine, gramine, 5-mehtoxy-N-methyltryptamine, carboline alkaroid nucleus, 5-methoxymethyltryptamine, 5-hydroxydimethyltryptamine, dimethyltryptamine.

Phalaris arundinacea L. (reed canarygrass;リードカナリーグラス(和名クサヨシ))も,hordenineを含んでいる.(注:hordenine(N含有-フェノール)は正確にはアルカロイドではないが,アルカロイドとして扱われることが多い.)

これらのアルカロイド含量は,草の系統(cultivar)によって大きく異なる.家畜への影響がでてくるのは,総インドールアルカロイドとして0.2%以上といわれている.

北米では,リードカナリーグラス中毒での死亡例は報告されていないが,ニュージーランドでは羊の死亡例が報告されている.北米では,P. aquatica (formaly tuberosa) やP. carolinianaによる中毒も報告されている.

中毒症状は,頭を振ったり,ふらついたり,筋肉の痙攣,起立不能などの神経症状が中心(Phalaris staggers).軽微な場合は増体率の低下,下痢など.

オーストラリアでは,Phalaris属の草による突然死も報告されているが原因はよく分かっていない.硝酸塩や青酸配糖体,チアミナーゼ等が原因ではないかとされている.

 

シュウ酸による障害

熱帯・亜熱帯型の牧草の中には,可溶性のシュウ酸塩(シュウ酸,シュウ酸ナトリウム,酸性シュウ酸カリウム)を多量に含むものがある.すなわち,buffelgrass (Cenchrus ciliaris), pangolagrass (Digitaria decumbens), setaria (Setaria sphacelata), kikuyugrass (Pennisetum cladestinum)など.(宮崎注:パンゴラグラスは少量であるがタイから輸入されており,沖縄では栽培もされている.その他にも沖縄で栽培されているギニアグラスなど.牧草以外では,カタバミ,スイバなど).

シュウ酸はカルシウムと反応して不溶性のシュウ酸カルシウムとなるため,カルシウムの吸収が阻害されてカルシウム欠乏症となる.第1胃でシュウ酸が分解されるため,馬よりも牛の方が感受性が低いといわれている.

馬では,牧草中の可溶性シュウ酸濃度が乾物あたり0.5%以上になると,栄養性の上皮小体機能亢進症?(hyperparathyroidism)を起こす可能性がある.

反すう家畜では,牧草に乾物当たり2%以上の可溶性シュウ酸が含まれると急性のカルシウム欠乏症(低カルシウム血症)になる可能性があるといわれている.

暖地型牧草に関する情報は,こちら(Tropical Forages)にあります.

 

青酸配糖体

スーダングラスのようなソルガム(イネ科モロコシ属)による青酸中毒はよく知られている.これらの植物は青酸配糖体(dhurrin)を含む.青酸配糖体が酵素的に加水分解されると青酸が遊離する.(青酸配糖体は植物の上皮細胞にあるが,加水分解酵素はmesophyll cellsにある.咀嚼や胃内での消化によって両者が接触する.また,腸内細菌のβ-グルコシダーゼによるともいわれる).ソルガムの青酸配糖体含量は成熟とともに低下するが,栄養価は逆に低下してしまう.

青酸はミトコンドリアの呼吸酵素シトクロムオキシダーゼを阻害し,ATPが枯渇してしまう.動物は,呼吸促迫,興奮,あえぎ,ふらつき歩行,痙攣,麻痺を経て死亡する.急性の場合は突然死.血液は鮮紅色を呈する(オキシヘモグロビン).

青酸は,生体内でチオサルフェートと反応してチオシアネートとなって無毒化(触媒酵素:thiosulfate:cyanide sulfur transferase (rhodanase))され,尿中に排泄される.長期間青酸配糖体を摂取し続けると,血中チオシアネートも長期間上昇する.チオシアネートはゴイトロゲンとして知られており,また神経症状をもたらすともいわれる.また,オーストラリアではチオシアネートの排泄亢進によるイオウ欠乏も報告されている.しかし,イオウを補給すると第1胃内でチオモリブデン酸となり銅との複合体を作ってしまうため,今度は銅欠乏になるので注意が必要.

(宮崎注:青酸配糖体はバラ科のウメ,アンズ,リンゴ等の未熟な果実や,マメ科のシロツメクサ,アカシアなどにも含まれる).

 

光線過敏症

光線過敏症は,特定の化学物質が太陽光線によって活性化してラジカルを発生し,皮膚に障害をもたらす疾病である.光線過敏症にはprimary と secondary がある.

Primary光線過敏症は,飼料中の化学物質が吸収され,太陽光線と反応して皮膚に障害をもたらすものである.Hypericum perforatum(St. John's wort;コゴメバオトギリ) のヒペリシン(hypericin)やFagopyrum esculentum(buckwheat; ソバ)のファゴピリン(fagopyrin)そしてパースニップ,パセリ,セロリなどに含まれるフロクマリン(furocoumarin)等がこれにあたる.

放牧中の動物でのsecondaryあるいは肝原性(hepatogenous)な光線過敏症は,肝障害によって起こる.肝がクロロフィルの代謝産物でphotodynamicなフィロエリスリン(phylloerythrin)を血中から胆汁へと充分に排泄できないことによる.したがって,青草を食べている動物では,種々の肝毒性物質が光線過敏症の原因となる.

熱帯あるいは暖地型のPanicum属(イネ科キビ属;ギニアグラスなど)やBrachiaria属(イネ科ビロードキビ属)の牧草は,放牧中の家畜に肝原性(hepatogeneous)の光線過敏症が起こることが知られている.障害を受けた家畜の胆管には結晶物が見られ,これはステロイドサポニンのカルシウム塩であることが明らかになった.すなわち,植物中のサポニンが第1胃で加水分解を受けてアグリコンとなって吸収され,体内でグルクロン酸抱合されてカルシウム塩となったものが胆汁に排泄される.このステロイドサポニン-カルシウム塩が胆汁中で不溶性の結晶となって胆汁の排泄を阻害し,肝機能障害をもたらすと考えられている.しかし,これらの植物中に存在する濃度のステロイドサポニン単独では光線過敏症はほとんど起こらず,肝機能障害誘発にはマイコトキシン(スポリデスミン)など他の要因の関与(後述の「顔面湿疹」参照)が考えられている.

 

外因性の毒物による中毒

ライグラススタッガー

省略.別項参照

 

Sleepygrass中毒

Sleepygrass(Stipa robusta;イネ科ハネガヤ属)は,コロラドなどアメリカ南西部の牧草地に見られる一年生の草で,これを食べた牛や馬が茫然とした催眠状態になることで知られている.原因物質は,この草に感染したNeotyphodiumエンドファイトが作るリセルグ酸アミド等の麦角アルカロイドと考えられている.リセルグ酸アミドはLSD(リセルグ酸ジエチルアミド)と非常に似た化合物である.

 

顔面湿疹(facial eczema)

Facial eczemaは,Pithomyces chartarumが作るマイコトキシンのスポリデスミン(sporidesmin)によるsecondary光線過敏症であり,ニュージーランドでよく見られる.罹患した動物は,顔や乳房など体毛の少ない部分に,重度な皮膚炎が見られる.また,不妊にもなるといわれる.

スポリデスミンは銅の触媒作用によって酸化されてラジカルを発生し,これが分子状の酸素と反応してスーパーオキサイドを産生すると考えられており,これによって肝が障害を受けるのではないかといわれている.

亜鉛を投与すると銅の吸収が阻害されるため,ニュージランドでは本症予防のための亜鉛投与が行われている.また,亜鉛はスポリデスミン代謝産物に結合し,その自動酸化を阻害するともいわれている.

 

フザリウムマイコトキシン

北米では,フザリウム属真菌が作るゼアラレノンやトリコテセン系マイコトキシンによる家畜の中毒がよくみられる.おもに穀物によるもので放牧牛では見られないが,ニュージーランドでは,放牧している羊の不妊や成長不良が報告されている.

 

Kikuyugrass中毒

Kikuyugrass(Pennisetum clandestinum;キクユグラス,イネ科チカラシバ属)は熱帯型牧草で,サポニン,硝酸塩,シュウ酸などの有害物質を含む.しかし,草食獣のキクユグラス中毒の原因は明らかではない.

有毒なキクユグラスを摂食した24-48時間後から,食欲不振,沈うつ,起毛,流涎,疝痛,歯ぎしり,消化管運動の停止,便秘等の症状を呈する.また,sham-drinkingも特徴的で,動物は水を飲もうとするが飲むことが出来ない.

南アフリカやニュージーランドの研究者は,キクユグラスとarmy wormとの関連を指摘しているが,オーストラリアではarmy wormがいなくても中毒が発生している.何らかのマイコトキシンが関与しているのではないかという研究者もいるが,真菌の関与を否定する研究者もいる.

 

一年生ライグラス中毒

省略.別項参照

 

(1998.4.11 登録,2008.3.3 最終更新,シュウ酸による障害および光線過敏症の項の誤り修正.暖地型牧草情報へのリンク)

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