マイコトキシンに関する最近の話題

 

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フモニシンについて

フモニシン(fumonisin)は Fusarium verticilloides(以前のF. moniliforme )および F. proliferatum が産生するマイコトキシンで,ウマの白質脳軟化(equine leukoencephalomalacia;Marasas WF et al., 1988, Kellerman TS et al., 1990)やブタの肺水腫(porcine pulmonary edema;Harrison et al., 1990)の原因物質として近年知られたマイコトキシンです.

また,疫学調査からヒトの食道がんとの関連性も報告されており(Chu and Li, 1994),公衆衛生上も注目を浴びています.

フモニシンB1およびB2は,南アフリカの研究者によって1988年にF. moniliforme の培養から単離・構造決定され(Bezuidenhout SC et al., 1988, Gelderblom WC et al., 1988),アメリカの1989年産のトウモロコシによる家畜の中毒の大発生によって一躍注目を浴びました.

フモニシンは図1のような構造をしています.

図2のようにスフィンゴ脂質の代謝経路を阻害することが知られています.

トウモロコシのフモニシン汚染調査がいくつか行われており(Shephard GS et al., 1996),畜産物の汚染を防ぐために,フモニシンの家畜体内での動態などについても研究されています(Richard JL et al., 1996, Prelusky DB et al., 1996).

トウモロコシ中のフモニシンの分析法については,「飼料分析基準」で公定法が定められています.

また,フモニシン簡易検査用のELISA法も開発されており,キットも市販されています(後述).

 

フモニシンに関する文献

  1. Abouzied MM et al., Fumonisins Veratox. A new rapid quantitative ELISA for determination of fumonisin in food and feed., Adv Exp Med Biol, 392:135-44, 1996
  2. Bezuidenhout SC et al., Structure elucidation of fumonisins, mycotoxins from fusarium moniliforme, J Chem Soc, Chem Commun, 743-745, 1988
  3. Chu FS and Li GY, Simultaneous occurrence of fumonisin B1 and other mycotoxins in moldy corn collected from the People's Republic of China in regions with high incidence of esophageal cancer, Appl Environ Microbiol, 60:847-52, 1994
  4. Diaz GJ; Boermans HJ, Fumonisin toxicosis in domestic animals: a review., Vet Hum Toxicol, 36:548-55, 1994
  5. Gelderblom WC et al., Fumonisins-Novel mycotoxins with cancer-promoting activity produced by Fusarium moniliforme, Appl Environ Microbil, 54:1806-11, 1988
  6. Gelderblom WC et al., Hepatotoxicity and -carcinogenicity of the fumonisins in rats. A review regarding mechanistic implications for establishing risk in humans., Adv Exp Med Biol, 392:279-96, 1996
  7. Harrison et al., Plumonary edema and hydrothorax in swine produced by fumonisin B1, a toxic metabolite of Fusarium moniliforme, J Vet Diagn Invest, 2:217-21, 1990
  8. Kellerman TS et al., Leukoencephalomalacia in two horses induced by oral dosing of fumonisin B1, Onderspoort J Vet Res, 57:269-275, 1990
  9. Marasas WF et al., Lukoencephalomalacia in a horse induced by fumonisin B1 isolated from Fusarium moniliforme, Onderspoort J Vet Res, 55:197-203, 1988
  10. Marasas WF, Fumonisins: their implications for human and animal health., Nat Toxins, 3:193-8; discussion 221, 1995
  11. Marasas WF, Fumonisins: history, world-wide occurrence and impact., Adv Exp Med Biol, 392:1-17, 1996
  12. Merrill AH Jr et al., Sphingolipids--the enigmatic lipid class: biochemistry, physiology, and pathophysiology., Toxicol Appl Pharmacol, 142:208-25, 1997
  13. Miller MA; Honstead JP; Lovell RA, Regulatory aspects of fumonisins with respect to animal feed. Animal derived residues in foods., Adv Exp Med Biol, 392:363-8, 1996
  14. Richard JL et al., Absence of detectable fumonisins in the milk of cows fed Fusarium proliferatum (Matsushima) Nirenberg culture material., Mycopathologia, 133:123-6, 1996
  15. Riley RT et al., Evidence for disruption of sphingolipid metabolism as a contributing factor in the toxicity and carcinogenicity of fumonisins., Nat Toxins, 4:3-15, 1996
  16. Ross PF et al., A review and update of animal toxicosis associated with fumonisin-contaminated feeds and production of fumonisins by Fusarium isolates, Mycopathologia, 117:109-14, 1992
  17. Prelusky DB et al., Biological fate of fumonisin B1 in food-producing animals., Adv Exp Med Biol, 392:265-78, 1996
  18. Shephard GS et al., Worldwide survey of fumonisin contamination of corn and corn-based products., J AOAC Int, 79:671-87, 1996
  19. Smith JS; Thakur RA, Occurrence and fate of fumonisins in beef., Adv Exp Med Biol, 392:39-55, 1996
  20. Sydenham EW et al., Liquid chromatographic determination of fumonishins B1, B2 and B3 in corn: AOAC-IUPAC collaborative study, J AOAC Int, 79:688-96, 1996

 

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赤かび病について

赤かびが産生するマイコトキシンについて

1998年の春から初夏にかけては,作物栽培上からみるとあまり良い季候ではなかったようで,地方によっては大麦に赤かび病が発生しているそうです。

赤かび病の原因はFusarium属真菌です.被害作物が菌の増殖によって赤紫を呈することから,赤かびと呼ばれます.

Fusarium属の真菌はいろいろなマイコトキシン(かび毒)を産生し,人や動物に有害作用を示すことが知られており,わが国でも家畜の中毒が報告されています(大久保,1974).

Fusarium属真菌の作るおもなマイコトキシンは大きく3つに分けられます.このうち,赤カビ病の原因となるカビがつくるのはトリコテセンマイコトキシンです.

トリコテセン(trichothecene)系マイコトキシンは,共通骨格をもつ50種以上のマイコトキシンのグループです.構造上の特徴からさらに3つのグループに分類されます.グループAには,T-2 トキシン,HT-2 トキシンなど,グループBには,デオキシニバレノール(ボミトキシン),ニバレノール,フザレノンXなど,グループCには,ロリディンA,ベルカリンAなどがあります.毒性の強さは,C>A>Bといわれています.特に,麦類やトウモロコシのデオキシニバレノール及びニバレノール汚染は世界各地で問題になっています.

毒性はデオキシニバレノールよりT-2トキシンの方が強いのですが,汚染量としてはデオキシニバレノールの方がはるかに高いようで,デオキシニバレノールに関する研究が多く報告されています.

中毒症状としては,飼料摂取量の低下,嘔吐,胃腸炎,皮膚炎などの他,無白血球症(ATA)や再生不良性貧血などの血液障害も見られます.さらに,免疫機能の異常も誘発すると報告されています.また,催奇形性や発がん性も有するといわれています.

もう一つは,F.graminearumなどが産生するゼアラレノン(zearalenone)です.

ゼアラレノンはエストロジェン活性を持つマイコトキシンです.豚は特に感受性が高く,外陰部の肥大や死流産などを引き起こします.羊や牛でも,ゼアラレノンによる繁殖障害が報告されています.また,催奇形性もあるといわれています.

3番目は上述のフモニシンです

フザリウムマイコトキシンの分析法

飼料中のT-2トキシン,デオキシニバレノール,ニバレノール,ゼアラレノン,フモニシンの分析法は,「飼料分析基準」(畜産局長通達)に定められています.また,これらのマイコトキシンのELISA測定キットが市販されています.

家畜への給与試験の報告

泌乳牛デオキシニバレノールを6あるいは12 mg/kg乾物含む濃厚飼料を給与したところ(一日一頭あたり43あるいは104 mgのデオキシニバレノールを摂取),飼料摂取量や乳量には影響がなかった.乳汁中のデオキシニバレノールおよびその代謝産物(deepoxydeoxynivalenol)濃度は検出限界(1 ng/ml)以下だった.(Charmleyら,1993).

乳牛デオキシニバレノール6 mg/kgを含む麦を毎日体重の1%給与したところ,飼料摂取量が若干低下したそうです.一方,にデオキシニバレノールを2 mg/kg含む飼料を給与しても,悪影響は見られ無かったそうです.(Trenholmら,1984)

妊娠および授乳中の豚に,デオキシニバレノールを6.2 mg/kg含む飼料を給与しても,母豚および子豚に異常は見られなかった.一部の母豚の乳汁から,2 μg/kg以下のデオキシニバレノールが検出された.(Friendら,1986)

育成豚に,デオキシニバレノールを3.4〜15.1 mg/kg含む飼料を給与したところ,飼料摂取量と増体率が低下した.また,食道および胃粘膜に異常が見られた.(Trenholmら,1994)

デオキシニバレノールを18 mg/kg含む飼料を幼雛に給与したところ,増体には変化がなかったが,ヘマトクリットおよびヘモグロビン濃度が減少した.(Kubenaら,1985)

産卵鶏デオキシニバレノールを4.9 mg/kg含む飼料を給与しても,なんら異常は見られなかった.(Hamiltonら,1985)

ブロイラー雛に,デオキシニバレノールを16 mg/kg含む飼料を給与したところ,増体率が低下し,血清LDH活性と血清TG濃度が低下した.また,貧血の発生率も増加した.(Huffら,1986)

性成熟した未経産豚ゼアラレノンを1,5,あるいは10 ppm含む飼料を,発情周期の5日目から20日目まで2 kgずつ給与したところ,1 ppmでは何ら影響が見られなかった.しかし,5あるいは10 ppm群では発情間隔の延長や血液中プロジェステロン濃度に影響がでたそうです.(Edwards et al., 1987).

トキシンの許容量について

日本では,農産物検査法に基づいた大麦の規格について以下のように定められています.(農産物検査法第六条(検査規格)に基づく農産物規格規定における大麦の項)

被害粒のうち赤かび粒は,次の標の上欄(左側)に掲げる種類に応じ,それぞれ,同表の下欄(右側)に掲げる割合を超えて混入してはならない.

種        類

割合(%)

普通小粒大麦及び普通大粒大麦の一等及び二等のもの

1.0

普通小粒大麦(飼料用に供されるもの)及び普通大粒大麦(飼料用に供されるもの)のうち合格のもの

10.0

ビール大麦

0.4
このように,日本ではトリコテセン系マイコトキシンの濃度ではなく,赤かびが発生した麦粒の割合で規制してきました.

行政的には,畜産局長からの通達「赤黴による被害麦の飼料としての取り扱いについて」(昭和37年9月11日付,37畜B 第4187号)で注意が喚起されていました.

しかし,日本でも暫定基準値として,飼料中のデオキシニバレノールの実量規制が行われることとなりました(2002年7月5日付けプレスリリース).これによると,飼料中のデオキシニバレノール濃度は1ppm以下,但し生後3ヶ月以上の牛に給与される飼料は4 ppm以下でなければならないとされています.

アメリカやヨーロッパでも,飼料中のデオキシニバレノール濃度について実量規制しています.その詳細はこちらです.

それでは,穀物がどのくらいの濃度のデオキシニバレノールに汚染されているのでしょうか.FDAが1991年に行った調査では,207サンプルの冬小麦のうち201サンプルからデオキシニバレノールが検出され,その濃度は平均2.4 ppm(0.4〜40 ppm),春小麦では206サンプルのうち120サンプルから検出され,平均濃度は0.9 ppm(0.9〜7.6 ppm)だったそうです.(Priceら,1993)

ゼアラレノンについては,最近輸入マイロから検出されたことから,家畜に給与される飼料中の濃度(原料の穀物中の濃度ではなく)の暫定許容値を1 ppmとする旨,生産局畜産部飼料課長から通知がありました.この根拠は,上述のEdwardsらの報告と思います.

食品に対する規制

食品としての麦類のデオキシニバレノール濃度については,厚生労働省の「薬事・食品衛生審議会食品衛生分科会食品規格・毒性合同部会」において,暫定基準を1.1 ppmとすることが報告されています(2002.5).これは,FAO/WHO合同食品添加物専門家会議の報告(2002.2)を受けたものです.

これを受けて,農水省も上述のように飼料中のデオキシニバレノール濃度の実量規制に踏み切りました.

 

赤かび毒に関する文献

 

マイコトキシンのELISAキットに関する注意

飼料中のマイコトキシンの分析は,公定法である「飼料分析基準」に従うのが基本です.

しかし,「飼料分析基準」で定められている機器分析法は,高価な分析機器や熟練を要するため,その実施は必ずしも容易ではありません.

一方,食品中のマイコトキシンを簡便にスクリーニングする目的で,各種のマイコトキシンを分析するためのELISAキットが市販されています.その詳細は,メイカーのウェブサイトをご覧下さい.こちらとこちらです.

これらのELISAきっとを飼料中マイコトキシンの分析(スクリーニング)に応用することも可能ですが,その使用に当たっては注意が必要です.

ELISA法は,抗原抗体反応がもとになっていますので,非特異的な反応が皆無ではありません.

また,市販のELISAキットは,競合ELISA法を応用したキットです.したがって,抗原抗体反応を妨害する物質が試料に含まれていると,マイコトキシンが含まれていなくても陽性反応がでます.

このようなことから,食品(穀物など)の分析を前提としたキットで試料を分析した場合,飼料がマイコトキシンを含んでいないにもかかわらず,陽性反応がでる(偽陽性)ことがあるので注意が必要です.

とくにサイレージの場合,乳酸などの有機酸を多く含んでいるので抽出液は酸性です.したがって,抽出液をアルカリで中和してから分析する必要があります.デオキシニバレノールの場合はこれでELISA分析できると思います.しかし,アフラトキシンなどは,抽出液を中性にしても,分析が妨害される(マイコトキシンを含まないにもかかわらず偽陽性反応がでる)ので,注意が必要です(出口ら,2005,北草研報,39:49).

配合飼料でも,場合によっては偽陽性反応がでます.

以上のことから,市販のELISAキットを飼料の分析に使う場合は以下のような注意が必要です.

  1. ELISAキットでは非特異反応があり,あくまでスクリーニング法であることを認識する.
  2. サイレージの場合は抽出液を中和するなど,妨害が予想される物質を除去する.可能であれば,抽出液を機器分析法に準じて精製する.
  3. 陽性反応がでた場合には,何らかの方法で確認する.機器分析による確認が望ましいが,試料の希釈で確認できることもある.すなわち,陽性反応がでた試料を希釈して分析すると,希釈倍率から予想される濃度より低い値になる(あるいは全く検出されない)ことがある.このような場合は偽陽性であったと判断できる.

 

(1997.6.18 登録,2005.9.28 最終更新) 

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農業・食品産業技術総合研究機構 動物衛生研究所 安全性研究チーム