ワラビ

学名:Pteridium aquilinum (L.) Kuhn

英名:bracken, bracken fern

早春の食材として私たち日本人の生活にはなじみの深い植物です。若芽だけでなく根茎からデンプンを採り、ワラビ粉としても利用されてきました。分類学上、ワラビ属はワラビ1種だけで構成されていますが、多数の変種が世界中に分布しています。葉の長さは約70cm、時には1mを越えることもあります。ワラビによる家畜の中毒は古くから知られていましたが、1960年代に全国の新しく造成された牧野で牛の急性ワラビ中毒の発生がみられ、その数は1969年頃には年間600頭にのぼり、大きな問題となりました。牧野からのワラビ除去が進んだ結果、その後の中毒の発生件数は激減しましたが、ワラビ中毒の死亡率は高いので注意が必要です。

 

膀胱肉眼所見(秋田県中央家畜保健衛生所提供)
 

有毒成分

ワラビ中毒は古くから知られているにもかかわらず、その原因物質は長い間不明でした。1983年になってワラビから発がん物質プタキロシド(ptaquiloside) が分離され、この物質がラットの腸や膀胱腫瘍の原因物質であること、これを子牛に投与することにより、牛の急性ワラビ中毒と同様の症状を起こすとが確認されました(1)。またワラビ摂取による羊の進行性網膜変性 (progressive retinal degeneration; PDR)もプタキロシド投与により再現できると報告されています(2)。最近、ワラビからブラキシンC (braxin C)が分離されましたが、これはモルモットに出血性膀胱炎を起こすと報告されています(3,4)。

ワラビには、チアミンピリジニラーゼ(チアミナーゼ、アノイリナーゼ)というチアミン(ビタミンB1)分解酵素が含まれていますが、これは主として馬などの単胃動物にチアミン欠乏を起こすものの、牛のワラビ中毒とは関係がありません。

中毒症状

反芻動物のワラビ中毒は、骨髄の造血機能低下(再生不良性貧血=汎骨髄癆)を招きます。症状としては白血球数の減少(白血球5000/mm3以下、顆粒球20%以下)、血小板数の減少(25万/mm3以下)、軽度の貧血、血液凝固不全が特徴です。軽症の場合は血液生化学的変化のみですが、症状が進行すると、可視粘膜の出血斑、血便、血尿などのほか、昆虫による刺傷、注射部位などからの出血が認められます。症状はワラビ給与開始後2〜8週間で現れ、重症の場合は症状発現から1から3日で死亡します。

我が国での牛のワラビ中毒の初めての報告は1961年である(5)

一方、北海道、中国地方では膀胱の腫瘍による血尿症が古くから発生していましたが、これはワラビの長期間摂取に伴う慢性中毒の結果であるといわれています(6)。

病理所見

解剖時には、全身の漿膜、粘膜、皮下織、筋肉及び実質臓器に出血性の変化が著しく認めらます。組織学的所見で最も特徴的なものは、骨髄における造血組織の形成不全で、顆粒球及び骨髄巨核細胞系統の減少、消失がみられます。重症例以外では出血巣として赤血球のみの骨髄が観察されます。これらの所見は生前の骨髄生検によって知ることができます。

 

文献

1) Hirono, I. et al. 1984. Reproduction of acute bracken poisoning in a calf with ptaquiloside, a bracken constituent. Vet. Rec. 115:375-378.

2) Hirono, I. et al. 1993. Reproduction of progressive retinal degeneration (bright blindness) in sheep by administration of ptaquiloside contained in bracken. J. Vet. Med. Sci. 55:979-983.

3) Yoshida, M. and Saito, T. 1994. Acute toxicity of braxin C, a bracken toxin, in guinea pigs. J. Toxicol. Sci. 19:17-23 .

4) Yoshida, M. and Saito, T. 1994. Non-urotoxic induction of hemorrhagic cystitis by braxin C, a bracken toxin, in guinea pigs. J. Toxicol. Sci. 19:55-59.

5)三浦定夫、大島寛一 1961. 牛ワラビ中毒に関する病理学的研究 -わが国における初発例について- 日本獣医学雑誌 23(6):347-354.

6) 前田 勉 1983. 牛の腫瘍性血色素尿に関する最近の研究成果 畜産の研究37:253-259,387-392, 496-502, 617-624.

 

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最終更新日:2012.8.21 病徴を「再生不良性貧血」と表現(日本獣医学会疾患名用語集に準拠)。また、引用論文5を追加。
        2018.2.8
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