ヘアリーベッチ

誤解を招く表現があるとのご指摘を受け表現を修正しました。その経緯はこちらをご覧下さい(2005.6.28)

学名:Vicia villosa Roth

英名:hairy vetch

ヘアリーベッチはマメ科ソラマメ属の一年草で、葉はカラスノエンドウ(Vicia angustifolia)に似ています。茎は細長く2 mにもなりますが、蔓性なので支柱になるものがない時の自然高は50 cmほどです。原産地は西アジアから地中海東部と言われていますが、あまり土壌を選ばず、耐寒性も強いので世界各地で栽培されたり野生化しています。和名はビロードクサフジですが、茎に毛の少ないタイプはナヨクサフジ(Vicia villosa Roth. subsp. varia (Host) Corb.)とよばれており、我が国では両方のタイプがヘアリーベッチとして市販されています。ヘアリーベッチは、牧草として用いられていますが、年間10 a当たり10 kgの窒素固定を行うので、緑肥作物としても用いられています。また、被覆力が強くアレロパシー作用(他感作用)も持っているので、耕作放棄地や果樹園などの雑草防止にも使われています(19)。

 

ヘアリーベッチ中毒と呼ばれているものについて

ヘアリーベッチを摂取した牛に中毒が起きたとの報告があります。中毒として報告されているものは3つタイプに分けられます(4,12)。一つは、ベッチの種子を摂取したときに起こる障害で、急性の神経症状を示し死亡します。これは、ある種のベッチ種子に含まれる青酸配糖体が原因と考えられています。二つ目はヘアリーベッチの生草を食べた牛にみられるもので、頭部、頚部、体幹の皮下浮腫、口腔粘膜のヘルペス状の発疹、膿状の鼻汁、ラ音、咳嗽などの症状を呈します。3つ目はヘアリーベッチの生草を食べた牛および馬にみられるもので(1,3-4,6,8,10-13)、発熱、皮膚炎、結膜炎、下痢などの臨床症状を呈し、病理学的には、後述のように全身性の肉芽腫性病変が特徴です。3つのタイプのうち、1番目と2番目のタイプについての報告は少なく、ヘアリーベッチによる中毒症例のほとんどは3番目のタイプです。

全身性の肉芽腫性病変を主徴とする3番目のタイプは、ヘアリーベッチ生草とコムギ、エンバク、ライムギなどの穀類を一緒に食べさせたとき、あるいはヘアリーベッチとバミューダグラスの混播草地で起こるようです。また、ヘアリーベッチの乾草やサイレージでは中毒は起こらないようです(12)。異常はヘアリーベッチ給与開始後数週間してから現れるので、ベッチの草地から動物を移動させた後に症状が出ることもあります(12)。発症するのは多くが3歳以上の年齢の牛で、症状も重篤になります。感受性に性差はないようですが、ホルスタインやアンガスでの中毒例が多く、ヘレフォードやその他の品種での中毒事例はほとんどありません。また特定の系統(群)の牛に好発するとも言われています。また、報告は少ないですが、馬での発生例もあります(1,16).このような異常はヘアリーベッチだけではなく、他のVicia属植物の摂取でも起こるようです。

病理所見では、肉眼的には病変部の皮膚の肥厚、皺曲、部分的な脱毛が観察されます。死亡例では、心筋、腎臓、副腎、リンパ節および甲状腺に巣状あるいは融合性の灰白色の炎症性病巣がみられます。病巣は概ね中等度に硬固で、隣接組織からは明瞭に区画されています。組織学的には、これらの限局性の病変は実質の壊死とマクロファージ、多核巨細胞、好酸球およびリンパ球浸潤からなっていて、4型の過敏症反応が生体反応の中心です(12)。心筋線維は壊死性で、時に石灰化がみられ、筋形質は脱落し核と多核巨細胞が残存しています。尿細管の壊死も観察され、尿細管上皮の再生、リンパ球を主体とする白血球の高度の浸潤および糸球体基底膜の肥厚を伴っています。

このように、ヘアリーベッチを摂取した牛あるいは馬に、全身性の肉芽腫性病変を主徴とする異常が現れるという報告が、アメリカ、アルゼンチン、ブラジル、南アフリカなどであるのですが、原因物質や発症機序についてはほとんど解明されていません。ヘアリーベッチは牧草としてかなり用いられているのですが、その割に中毒事例は多くありません。そのため、全身性肉芽腫性病変を主徴とする異常の原因はヘアリーベッチではなく、アブラムシなどの昆虫やカビなどが原因ではないかといった指摘もあります。しかし、異常の発生に季節性がないことから、これらの可能性は低いとの反論もあります(12)。

一方、ヘアリーベッチなどのベッチ類を摂取していない牛にも全身性の肉芽腫性病変を主徴とした異常が出ることが古くから知られています。これらは“vetch-like diseases”,とか“pyrexia, pruritis(pruritus), hemorrhagic syndrome(発熱・そう痒・出血症候群)”などとも呼ばれていますが、臨床症状や病理所見はヘアリーベッチ採食にリンクした異常ときわめて類似しています(2,5,9,14-15)。これらの異常の原因として、Sylade(サイレージ添加剤)、DUIB(ジウレイドイソブタン)などが考えられています。日本でも、全身性の肉芽腫性病変を主徴とした異常が牛に散発しており、私たちも報告しています(7,17-18)。しかし、我が国での症例はヘアリーベッチ、Sylade、DUIBとは関係がありません。

以上のように、肉芽腫性の病変を主徴とする牛の異常の原因については混沌としている状況です。しかし、発生する個体が特定の品種や系統あるいは一定以上の年齢の牛に限定されること、病理組織学的には4型の過敏症であることなどから、植物に含まれるレクチンなどの蛋白質が過敏症の原因になっているのではないかとの指摘があります。いずれにしても、ヘアリーベッチ摂取とリンクした全身性肉芽腫病が一定数報告されていること、また、回復した牛にもう一度ヘアリーベッチを給与すると再発するという報告(12)もあることから、ヘアリーベッチがこれらの異常の原因の一つである可能性は高いと思います。

とはいっても、前述のようにヘアリーベッチは被覆植物、緑肥植物としては大変有用です。ヘアリーベッチ摂取牛での全身性肉芽腫性病変の発生率は大変低いものですし、ヘアリーベッチがこのような家畜の異常の原因だとしても、ヘアリーベッチの被覆植物、緑肥植物として利用には問題がありません。

イネ科牧草と混播して牛の飼料とするような場合には、ヘアリーベッチ摂取牛に全身性肉芽腫性病変を主徴とする異常が発生する可能性があることを念頭に置きつつ、有効利用法を考えるのが現実的な対応と思います。

全身性肉芽腫性病変の原因物質について

上述のように、ヘアリーベッチを摂取していない牛にも全身性の肉芽腫性病変を主徴とした異常が出ることが古くから知られていましたが、その原因は不明でした。しかし最近、シアナミドという化学物質が牛に全身性の肉芽腫性病変を主徴とした異常を誘発することが明らかになりました(20)。牛舎の敷料を消毒するのに石灰窒素(主成分はカルシウムシアナミド)が用いられますが、石灰窒素は水と反応して分解しシアナミドとなります。このシアナミドがアレルギー性病変を引き起こすことが明らかになりました。

一方、ヘアリーベッチのアレロパシー作用の主体はシアナミドであることも報告されています(21)。したがって、ヘアリーベッチによる牛の全身性肉芽腫性病変も、ヘアリーベッチに含まれるシアナミドによって誘発されるのかも知れません。今後の検証が待たれます。

文献

1) Anderson, C.A. et al. 1983. Systemic granulomatous inflammation in a horse grazing hairy vetch. J. Am. Vet. Med. Assoc. 183:569-570.

2) Breukink, H.J. et al. 1978. Pyrexia with dermatitis in dairy cows. Vet. Rec. 103:221-222.

3) Burroughs, G.W. et al. 1983. Suspected hybrid vetch (Vicia virosa crossed with Vicia dasycarpa) poisoning of cattle in the republic of South Africa. J. South Afr. Vet. Assoc. 54:75-79.

4) Fighera, R.A et al. 2004. Systemic granuromatous disease in Brazilian cattle grazing pasuture containing vetch (Vicia spp). Vet. Hum. Toxicol. 46:62-66.

5) Griffiths, I.B. and Done, S.H. 1991. Citrinin as a possible cause of the pruritis, pyrexia, haemorrhagic syndrome in cattle. Vet. Rec. 129:113-117.

6) Harper, P. et al. 1993. Vetch toxicosis in cattle grazing Vicia villosa spp dasycarpa and V. benghalensis. Aust. Vet. J. 70: 140-144.

7) Iizuka, A. et al. 2005. An outbreak of systemic granulomatous disease in cows with high milk yields. J. Vet. Med. Sci. 67: 693-699.

8) Johnson, B. et al. 1992. Systemic granuromatous disease in cattle in California associated with grazing hairy vetch (Vicia villosa). J.Vet.Diagn.Invest. 4:360-362.

9) Matthews, J.G. and Shreeve, B.J. 1978. Pyrexia/pruritus/haemorrhagic syndrome in dairy cows. Vet. Rec. 103:408-409.

10) Odriozola, E. et a. 1991. An outbreak of Vicia villosa (hairy vetch) poisoning in grazing Aberdeen Angus bulls in Argentina. Vet. Hum. Toxicol. 33:278-280.

11) Panciera, R.J. et al. 1966. A disease of cattle grazing hairy vetch pasture. J.Am.Vet.Med.Assoc. 148: 804-808.

12) Panciera, R.J. et al. 1992. Hairy vetch (Vicia villosa Roth) poisong in cattle: update and experimental induction of disease. J.Vet.Diagn.Invest. 4:318-325.

13) Pett, R.L. and Gardner, J.J. 1986. Poisoning of cattle by hairy or wooly-pod vetch, Vicia villosa subspecies dasycarpa. Aust.Vet J. 63: 381-383.

14) Saunders, G.K. et al. 2000. Suspected citrus pulp toxicosis in dairy cattle. J. Vet. Diagn. Invest. 12:269-271.

15) Turner, S.J. et al. 1978. Pyrexia with dermatitis in dairy cows. Vet. Rec. 102:488-489.

16) Woods, LW. et al. 1992. Systemic granulomatous disease in a horse grazing pasture containing vetch (Vicia sp.). J.Vet.Diagn.Invest. 4:356-360.

17)飯塚綾子ほか 2002 高泌乳ホルスタイン牛に集団発生した全身性肉芽腫症.第134回日本獣医学会講演要旨、p150.

18)伊藤麗子ほか 2002 出血傾向が顕著に見られた乳牛の全身性肉芽腫症.第134回日本獣医学会講演要旨、p150.

19) 藤井義晴 1992 ヘアリーベッチで耕作放棄地の雑草を抑制. 畜産コンサルタント 31:44-49.

20) Onda, K. et al. 2008. Contact dermatitis in dairy cattle caused by calcium cyanamide. Vet Rec. 163:418-422.

21) Kamo, T. et al. 2003. First isolation of natural cyanamide as a possible allelochemical from hairy vetch. J. Chem. Ecol. 29:275-283.

 

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最終更新日:2018.2.8
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