セイヨウカラシナ

学名:Brassica juncea (L.) Czern.

英名:leaf mustard

セイヨウカラシナはヨーロッパ原産のアブラナ科アブラナ属の二年草で,アブラナ(Brassica campestris )とクロガラシ(Brassica nigra)の雑種4倍体です. 日本では関東以西,特に関西地方の河川敷などで大繁殖をしています.草丈は,大きいものでは150cmぐらいになり,群落の開花時は見事です.

栽培種のカラシナ(Brassica juncea (L.) Czern. et Coss)は,野生種であるセイヨウカラシナに由来しています.カラシナの種子はからし(芥子)の原料になりますが,春先にとう立ちしたものは漬物としても食べられます.セイヨウカラシナもカラシナ同様漬物にすると美味だそうです.

写真はすべてカラシナ

有毒成分

セイヨウカラシナ,カラシナ,クロガラシなどの葉や種子にはシニグリン(sinigrin)などのからし油配糖体(グルコシノレート; glucosinolate)が含まれています.からし油配糖体は同じ植物内に含まれる酵素(ミロシナーゼ; myrosinase)による加水分解でグルコースが取れて非糖体(アグリコン; aglycone)になり,さらにLossen転移という反応でイソチオシアネート(isothiocyanate)になります.シニグリンからはアリルイソチオシアネート(allyl isothiocyanate)が出来ます.イソチオシアネートは刺激性が強く,多量に摂取すると中毒の原因となります.アリルイソチオシアネートのラットに対するLD50は,339mg/kg(経口)と報告されています.また,体重30kgのジャージー子牛に10%アリルイソチオシアネート水溶液15mlを経口投与したところ,5時間後に死亡したと報告されています(6).

β位に水酸基を持つグルコシノレート(プロゴイトリン;progoitrin)はイソチオシアネートになったのち環化してゴイトリン(goitrin)になります.イソチオシアネートやゴイトリンは甲状腺でのよう素の取り込みを阻害するので,甲状腺ホルモンの合成が抑制されます.したがって,多量のからし油配糖体を長期間摂取すると甲状腺腫になります(2).

また,イソチオシアネートは薬物代謝のフェーズI酵素(シトクロムP450)を阻害し,フェーズII酵素(グルタチオン S-トランスフェラーゼ)を誘導することにより,化学発がんを抑制することが報告されています(3).適量のアブラナ科野菜の生食は,がん予防に有効かも知れません.

検査法

シニグリンなどのグルコシレート含量は,試料中のグルコシノレートをミロシナーゼで完全加水分解し,遊離するグルコースを定量することにより求められます.遊離したグルコース量は,グルコースオキシダーゼ法で定量できます (4) .

イソチオシアネートは,1,2-benzenedithiolと反応して環化し,365nmに吸収を持つ1,3-benzendithiol-2-thioneを生成することを利用して定量できます(5) .また,イソチオシアネートは生体内で代謝されてジチオカーバメート(dithiocarbamate)となり,尿中に排泄されます.この,ジチオカーバメートもイソチオシアネートと同様に測定することが出来るので(1),中毒の診断に有効でしょう.

中毒症状

アリルイソチオシアネートの急性中毒症状としては,胃腸炎による下痢,疝痛,腎炎による血尿,起立不能,呼吸困難などがあげられています.1996年の兵庫県での牛の中毒例では,呼吸弱,食欲廃絶,皮温冷,眼球振盪,排尿停止,便硬固,外陰部チアノーゼ,起立不能などの症状を呈したと報告されています(6).

セイヨウカラシナではありませんが,同じアブラナ科のナタネ(Brassica rapa L. var. nippoleifera Kitam.)の種子から油を絞った粕(ナタネ粕)が,ニワトリの飼料として使われていたことがあり,これによる甲状腺の肥大や,イソチオシアネートによる急性中毒の報告もあります(7).

病理所見

肉眼所見としては,消化管粘膜,肝,腎,心臓などに出血性の変化がみられます.組織学的には消化管粘膜の出血・壊死,肝門脈周囲の出血巣,腎尿細管上皮や糸球体の変性壊死,などが報告されています(6).

病理写真は兵庫県姫路家畜保健衛生所提供

文献

1) Shapiro TA, et al. 1998. Human metabolism and excretion of cancer chemoprotective glucosinolates and isothiocyanates of cruciferous vegetables. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev.. 7:1091-1100.

2) Spiegel C, et al. 1993. Feeding of rapeseed presscake meal to pigs: effects on thyroid morphology and function and on thyroid hormone blood levels, on liver and on growth performance. Zentralbl .Veterinarmed .[A]. 40:45-57.

3) Tanaka T, et al. 1992. Inhibitory effects of the natural products indole-3-carbinol and sinigrin during initiation and promotion phases of 4-nitroquinoline 1-oxide-induced rat tongue carcinogenesis. Jpn. J. Cancer Res. 83:835-842.

4) van Doorn HE, et al. 1999. Large scale determination of glucosinolates in brussels sprouts samples after degradation of endogenous glucose. J. Agric. Food Chem. 47:1029-1034.

5) Zhang Y, et al. 1996. Quantitative determination of isothiocyanates, dithiocarbamates, carbon disulfide, and related thiocarbonyl compounds by cyclocondensation with 1,2-benzenedithiol. Anal. Biochem. 239:160-167.

6) 西口示ら 1997. アブラナ属雑草カラシナ類による中毒例.家畜臨床 406:25-30.

7) 松本達郎 1972. 家禽に対するナタネ粕給与の問題点と解決策. 家禽会誌 9:243-253.

 

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最終更新日:2014.9.3  文献書誌情報の誤りを修正

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