オーチャードグラスの病害 (2)


黒さび病(kurosabi-byo) Stem rust
病原菌:Puccinia graminis Persoon f.sp. dactylidis Gaumann、担子菌
 オーチャードグラスのさび病の中では最も被害の大きい重要病害。暖地では春先から病徴が出始め、さび病独特の腫れ物状の病斑を形成する。病斑は赤褐色または鉄さび色、楕円形〜条状で、長さ1〜2mm、幅0.5〜0.6mm程度となり、これが融合して不規則な形になる。成熟すると表皮が破れて中から赤褐色の夏胞子を飛散し、まん延する。夏から秋にかけて病斑は黒褐色になり、冬胞子を形成して越冬する。病原菌はオーチャードグラス栄養系の反応で、5つのレースに類別される。寄生性は自然界ではオーチャードグラスだけを侵す。


紫斑点病(murasaki-hanten-byo) Purple leaf spot
病原菌:Stagonospora maculata (Grove) Sprague、不完全菌
 春先から夏にかけて発生する糸状菌病。発生頻度は高い。葉に初め紫褐色の斑点を生じ、これが広がって2ー5×0.5-1mmの紡錘形病斑となる。病斑が融合すれば、その部分は茶褐色に枯死する。病斑が古くなるとその上に小さな黒点(柄子殻)を形成する。


夏葉枯病(natsu-hagare-byo) Summer leaf blight
病原菌:Drechslera dactylidis Shoemaker、不完全菌
 
 北海道で関東以北で発生する糸状菌病。梅雨明け直後に発生することが多い。病斑は不規則に現れ、1.5×0.5cm以上の大きさの紡錘型病斑となる。病斑内部はうす煉瓦色もしくは淡灰色で、周囲は黄化し、病斑は相互に融合して葉全体を枯らす。


夏斑点病(natsu-hanten-byo) Summer leaf spot
病原菌:Cochliobolus sativus (Ito et Kuribayashi) Drechs. ex Dastur (= Bipolaris sorokiniana (Saccardo apud Sorokin) Shoemaker)、子のう菌
 2003年夏に北海道で,2006年には栃木で発生した新病害。いずれも野生するオーチャードグラスに発生した。病斑は淡褐色〜褐色,楕円形〜紡錘形,大きさ2〜10×1〜3 mmで,後に融合して葉枯となる。病原菌はライグラス夏斑点病菌,フェスク斑点病菌などと同種。
 
 
捻葉病(nen-you-byo) Twist
病原菌:Dilophospora alopecuri (Fries) Fries、子のう菌
 主に北海道で発生する糸状菌病。初め葉が部分的に黒いかびに被われ、この部分に小黒点(柄子殻)が認められる。やがて、黒いかびが広がって葉全体が捻れあるいは奇形となる。激発すると稈にも発生し、地上部全体が黒色となり、捻れたようになる。


すじ葉枯病(suji-hagare-byo) Brown stripe
病原菌:Scolecotrichum graminis Fuckel、不完全菌
 全国で発生する斑点性の糸状菌病。特に採種病害として重要。葉では初め葉脈間に褐色〜紫褐色、短い線状、長さ2ー3mm、幅0.5-1mmの病斑が現れる。これが徐々に伸びて長さ2ー3cmになり、相互に融合して、葉全体が灰白色に枯れる。枯れた病斑部には小さな黒点のようなかびがつくが、これは胞子で飛散してまん延する。病原菌はチモシー、トールオートグラスなどにも寄生するが、寄生性は分化していると考えられている。


すじ黒穂病(suji-kuroho-byo) Stripe smut
病原菌:Ustilago striiformis (Westendorp) Niessl、担子菌
 北海道で発生する糸状菌病。被害はさほど大きくない。葉、葉鞘、稈に黒色粉状の条斑を形成する。この黒い粉は黒穂胞子で、病斑表面が破れて裸出し、風雨で飛散してまん延する。病斑部分は後に裂けてくることが多い。


炭疽病(tanso-byo) Anthracnose
病原菌:Colletotrichum graminicola (Cesati) G.W.Wilson、不完全菌
 暖地での夏枯の原因となる斑点性の糸状菌病。初め水浸状の小斑点が現れ、これが広がって淡赤褐色〜橙色、楕円形〜紡錘形、長さ5-10mm、幅2ー4mm程度の病斑になる。病斑が古くなると中央部に剛毛という菌組織を形成し、黒くかびたように見える。多湿条件下ではオレンジ色の胞子粘塊を形成し、これが風雨で飛散してまん延する。梅雨明けから夏の終わりにかけて発生する。病原菌はソルガム、ライグラス、バヒアグラスなどの炭そ病菌と同種であるが、それぞれ寄生性が分化しているとされる。


うどんこ病(udonko-byo) Powdery mildew
病原菌:Blumeria graminis (de Candolle) Speer f.sp. dactylidis Oku, Yamashita, Doi et Nishihara、子のう菌
 関東以北で発生の多い重要病害。梅雨入り前から葉に白色〜灰色の綿毛状のかびが生えたような小さな病斑が現れる。病勢が進むと、植物体全体に白い粉をまいたような外観になる。この白い粉は分生子で、風雨で飛散してまん延する。雨が降ると白い粉が落ち、下から黄褐色で不定形の病斑が現れる。冷涼条件で発生し、特に曇天が続くなど日照が足りないときに多発する。病原菌のオーチャードグラスに対する分化型は日本で初めて発見された。


雪腐褐色小粒菌核病(yukigusare-kasshoku-shouryuu-kinkaku-byo) Typhula snow blight
病原菌:Typhula incarnata Lasch:Fries、担子菌
 株枯れを引き起こし、主に北海道で発生する重要病害。病徴は黒色小粒菌核病と類似するが、枯死部表面に形成される菌核が粟粒大、赤褐色である点が異なる。菌核は枯死植物の茎、葉、根などに形成される。病原菌は黒色小粒菌核病菌と近縁だが、より腐生性が強く、黒色小粒が発病した後に侵入し、混発するとされる。


雪腐黒色小粒菌核病(yukigusare-kokushoku-shouryuu-kinkaku-byo) Typhula snow blight
病原菌:Typhula ishikariensis Imai、担子菌
 株枯れを引き起こし、主に北海道で発生する重要病害。病徴は融雪直後から現れ、茎葉は水浸状になり、ゆでたように軟化して、乾くと灰褐色に変色する。この上には暗褐色〜黒色、球形〜不整形、直径0.5-1mm程度の菌核を多数形成する。病原菌は形態的に異なる3つの生物型に分類され、生物型Aは多雪地帯に、生物型Bは寡雪地帯に、生物型Cはいずれにも分布する。これらの菌群は分布だけでなく、寄生性及び稔性などでも異なる。


雪腐大粒菌核病(yukigusare-tairyuu-kinkaku-byo) Sclerotinia snow blight
病原菌:Myriosclerotinia borealis (Bubák et Vleugel) Kohn、子のう菌
 北海道、東北で株枯れを引き起こす重要病害。土壌凍結期間の長い地域に分布する。病徴は融雪直後に深緑色、水浸状になり、ゆでたように軟化する。乾くと灰褐色になり、その表面にネズミの糞状で、大きさ5-10mm程度の黒い大型菌核を形成する。晩秋には菌核からキノコが出て、感染源となる子のう胞子を飛散させる。病原菌は多犯性で、オオムギ、コムギ、フェスク、ライグラス、チモシー、レッドトップなどで発生が報告されているが、牧草の中ではオーチャードグラスおよびライグラスが最も弱い。

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