ベントグラスの病害


バイポラリス葉枯病(Bipolaris-hagare-byo) Bipolaris leaf blight
病原菌:Bipolaris sorokiniana (Saccardo apud Sorokin) Shoemaker (= Cochliobolus sativus (Ito et Kuribayashi) Drechs. ex Dastur)、子のう菌
 主に東日本のゴルフ場のクリーピングベントグラスのグリーンに発生する糸状菌病。春〜秋に発生し、淡褐色、円形から不整形の中型パッチを形成する。罹病個体の葉身は褐色に枯れ、まれに褐色の斑点が認められる。病原菌は広くイネ科植物に寄生し、イネ、コムギおよびオオムギ等の斑点病、ライグラスおよびオーチャードグラスの夏斑点病等を引き起こす。


ダラースポット病(dollar spot-byo) Dollar spot
病原菌:Clarireedia jacksonii Salgado, Beirn, Clarke & Crouch, C. monteithiana Salgado, Beirn, Clarke & Crouch, Clarireedia sp. (=Sclerotinia homoeocarpa Bennett)、子のう菌
 全国で発生し、被害の大きい重要な糸状菌病。5-7月および9-11月に発生が多く、白色で、円形から楕円形、直径2-3cmの小型パッチを多数形成する。夜間に病斑上に菌糸を伸ばして、くもの巣状を呈することがある。培地上では黒色の板状菌核を形成する。病原菌は最近Clarireedia属として再同定され、日本の菌は寒地型芝草菌が主にC. jacksonii、暖地型芝草菌が主にC. monteithianaに分類される。病原菌の産生するジテルペン類毒素オイジオデンドロリドにより病徴が再現する。


デッドスポット病 Dead spot
病原菌:Ophiosphaerella agrostis Dernoeden, Camara, O'Neill, Berkum & Palm、子のう菌
 直径2〜5cm程度の小型パッチ病斑となり、晩春から初秋まで発生するが、7月〜9月が多い。菌の最適生育温度は25℃だが、特に夏の暑さで感染個体が枯れることが多いため、夏場の病害となる。病徴はダラースポットと類似しているが、パッチの色が赤褐色であり、パッチ上にくもの巣状の菌糸を形成しない等が異なる。病原菌はペレニアルライグラスやバミューダグラスにも強い病原性を示す。感染個体の茎や葉には黒色の小さな粒(偽子嚢殻)がまれに観察され、子のう胞子は棍棒状である。


ドレクスレラ葉枯病(Drechslera-hagare-byo) Drechslera leaf blight
病原菌: Drechslera catenaria (Drechsler) Ito, Drechslera erythrospila (Drechsler) Shoemaker, Drechslera sp.、不完全菌
 北海道〜三重県にかけてゴルフ場のクリーピングベントグラスのグリーンに発生する糸状菌病。冷涼から温暖期に発生し、淡褐色〜褐色、スポット状から不整形のパッチを形成する。罹病個体の葉身は褐色に枯れ、まれに内部灰白色、周縁部褐色の楕円形斑点が認められる。病原菌はD. catenaria, D. erythrospila, Drechslera sp.の三種だが、接種病徴に違いは認められない。D. catenariaはカズノコグサ葉枯病を、D. erythrospilaはレッドトップ斑点病を引き起こす。


葉腐病(hagusare-byo, ブラウンパッチ) Brown patch
病原菌:Rhizoctonia solani Kühn AG-2-2 VB、AG-1 TB、担子菌
 全国で発生し、被害の大きい重要な糸状菌病。梅雨入り頃から発生し、初めはぼんやりとしたパッチであるが、後に全体が暗褐色の円形の大型パッチとなる。直径は1m前後にも達する。病原菌はAG-2-2 VBが多いが、関東以北ではAG-1 IBもかなり頻繁に分離される。


いもち病 Blast
病原菌:Pyricularia sp.、不完全菌(子のう菌)
 8月頃に暗褐色で直径数cm〜10cmのパッチを形成する。パッチ内の罹病個体は暗褐色の葉枯れや株枯れ症状を呈する特徴がある。病原菌はベントグラス類の他、ペレニアルライグラス、トールフェスクおよびケンタッキーブルーグラスにも病原性を示す。


冠さび病(kansabi-byo) Crown rust
病原菌:Puccinia coronata Corda、担子菌


カッパースポット(黒点葉枯病) Copper spot(病名未登録)
病原菌:Gloeocercospora sorghi Bain & Edgerton ex Deighton、不完全菌(子のう菌)
 最近6〜9月の夏場に発生が増加しており、概ね円形で、直径2〜7cmの銅色〜灰白色のパッチとなり、後に融合して不整形となる。ダラースポットと似ているが、パッチが赤味がかっていて、輪郭が不鮮明になる点が異なる。病原菌はソルガムひょう紋病と同一で、個別の葉身には赤褐色輪紋状の病斑を形成することがある。直径0.2mm程度の黒色の微小菌核を形成するのが特徴で、黒点葉枯病とも呼ばれる。多湿条件下では、病斑の表面に淡橙色の胞子粘塊をマット状に形成し、これに含まれる糸状胞子が風雨で飛散して蔓延する。菌の生育適温は25〜28℃程度である。日本シバ(ゾイシア)にも同じ病害が発生する。


ピシウム病(Pythium-byo) Pythium blight
病原菌:Pythium arrhenomanes Drechsler、P. graminicola Subramanian、P. vanterpoolii V. Kouyeas & H. Kouyeas、P. volutum Vanterpool & Truscott、Pythium sp.、卵菌
 パッチは初め暗緑色で直径10cm程度だが、特に梅雨明け前後に急速に広がり、最大直径2m程度の大型、黄〜褐色の不整形状になる。パッチは葉枯れよりむしろ沈みこむような病徴で、根や地際部が褐変することが多い。病徴の色味からイエローパッチ(黄斑症)とも呼ばれ、春先または秋に発生し、病原菌P. graminicola, P. vanterpooliiおよびP. volutumも生育適温は20〜25℃とやや低めで、夏場には発生しにくい病害とされてきた。しかし、最近の気候温暖化により、P. arrhenomanesおよび新種Pythiumなどの生育適温30℃以上の高温性ピシウムの発生頻度が高くなっており、被害が拡大している。


炭疽病(tanso-byo) Anthracnose
病原菌:Colletotrichum graminicola (Cesati) Wilson (= C. cereale Manns)、不完全菌(子のう菌)
 1990年代から温暖地を中心に広く発生する重要病害。春先から初夏に発生を始め、8〜10月まで発生することが多い。病徴は初め褐色から黒褐色の小さなパッチだが、気温の上昇とともに褐色から赤褐色、周縁部は不鮮明な不整形パッチとなる。直径は1mになることもある。パッチ内の葉には黄褐色の病斑があり、その上に黒いかさぶた状の小さな構造(剛毛)が形成され、内部桃色〜淡褐色の粘塊状に、三日月形〜鎌形の胞子を形成する。胞子が風雨で飛散して蔓延するが、粘塊状であるため、これが刈取り時に機械に付着して蔓延する。ピシウム病菌との混合感染による発病促進が報告されている。


雪腐褐色小粒菌核病(yukigusare-kasshoku-syouryuu-kinkaku-byo) Typhula snow blight
病原菌:Typhula incarnata Lasch:Fries、担子菌
 株枯れを引き起こし、主に北海道で発生する糸状菌病。病徴は白く抜けた大型、不定形のパッチであり、枯死部表面には粟粒大、赤褐色の菌核が形成される。菌核は枯死植物の茎、葉、根などに形成される。病原菌は黒色小粒菌核病菌と近縁だが、より腐生性が強く、黒色小粒が発病した後に侵入し、混発するとされる。


雪腐黒色小粒菌核病(yukigusare-kokushoku-syouryuu-kinkaku-byo) Typhula snow blight
病原菌:Typhula ishikariensis Imai、担子菌
 株枯れを引き起こし、主に北海道で発生する糸状菌病。病徴は融雪直後から大型パッチとして現れ、茎葉は水浸状になり、ゆでたように軟化して、乾くと灰褐色に変色する。この上には暗褐色〜黒色、球形〜不整形、直径0.5-1mm程度の菌核を多数形成する。

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