エンバクの病害


レッドリーフ病(red leaf-byo)  Red leaf
病原:Barley yellow dwarf virus (BYDV)、Wheat yellow leaf virus (WYLV)、ウイルス
 葉が赤く変色するウイルス病。葉先及び葉縁からかすれたように赤く変色していく。激発すると葉は枯死し、株は萎縮する。病原はオオムギ黄萎ウイルスとコムギ黄葉ウイルスで、他にライグラス、カモジグサなどを侵し、アブラムシにより伝播される。


かさ枯病(kasagare-byo) Halo blight
病原菌:Pseudomonas syringae pv.coronafaciens (Elliott 1920) Young, Dye and Wilkie 1978、バクテリア
 温暖地での発生が多い葉枯性のバクテリア病。葉では初め水浸状の斑点が現れるが、後に褐色の楕円形、紡錘形病斑となり、病斑周囲は黄色いハロー(かさ)で囲まれる特徴がある。病勢が進むと病斑が縦に伸び条状になり、最終的には枝梗や種子も侵されることがある。


褐斑細菌病(kappan-saikin-byo) Bacterial brown spot
病原菌:Pseudomonas syringae pv.alisalensis Cintas, Koike & Bull 2002、バクテリア
 2011年に長野県で初めて発生が報告された。春秋の降雨が多い時期での発生が多く、幅2mm×長さ5mm程度の褐色の病斑を主に下葉で形成する。緑肥用エンバク(Avena strigosa)での発生が多い。病原菌はエンバクに加えてオオムギに病原性を示すが、コムギとトウモロコシには病原性を示さない。毒素コロナチンを産生してキャベツ、ブロッコリー、ハクサイなどのアブラナ科作物に強い病原性を示し、黒斑細菌病を引き起こすため、発病した飼料用エンバクの後作にはアブラナ科作物の作付けは避けるべきとされる。


すじ枯細菌病(sujigare-saikin-byo) Bacterial stripe blight
病原菌:Pseudomonas syringae pv.striafaciens (Elliott 1927) Young, Dye and Wilkie 1978、バクテリア
 3-5月に発生する低温性のバクテリア病。葉では初め水浸状の斑点だが、後に長さ5-20cm、幅1-2mmの長い褐色条斑となる。病斑周囲は黄色く変色する。葉鞘でも発生する。病勢が激しいと生長点が侵され、株は枯死する。


裸黒穂病(hadaka-kuroho-byo) Loose smut
病原菌:Ustilago avenae (Persoon) Rostrup、担子菌
 子実が黒粉化する糸状菌病。開花時に感染し、子房が膨らむと共に内部が黒粉化し、表皮が破れて黒粉(黒穂胞子)が飛散する。激発すると穂全体が発病し、穂軸だけが残される。菌糸の形で種子伝染し、黒穂胞子は土中で長期間生存する。


葉枯病(hagare-byo) Leaf stripe
病原菌:Pyrenophora chaetomioides Spegazzini (=Drechslera avenacea (Curtis ex Cooke) Shoemaker)、子のう菌
 九州等で発生が増加している葉枯性の糸状菌病。葉、葉鞘、穎など地上部全体に発生する。葉では初め褐色の小斑点であるが、拡大して長さ5-10mm、幅1-2mmの条斑となる。病斑周囲は激しく黄化し、やがて葉全体が枯死する。病斑表面が黒くかびることがあるが、これは分生胞子である。


ひょう紋病(hyomon-byo) Zonate Leaf spot (病名未登録)
病原菌:Gloeocercospora sorghi Bain et Edgerton ex Deighton、不完全菌
 2011年11月、熊本県合志市で同年9月播種のエンバクに発生した。病徴は、葉に淡褐色、直径1cm程度の輪紋状楕円形病斑を形成、または葉縁から枯れる。病原菌は、無色、鞭状、大きく湾曲した分生子を形成する。ソルガムには病原性を示さないことから、ソルガムひょう紋病菌とは寄生性が異なると推定される。エンバク品種間で抵抗性差異が見られる。


いもち病(hagare-byo) Blast
病原菌:Pyricularia oryzae Cavara (=Magnaporthe oryzae B. Couch)、子のう菌
 病斑は短い紡錘形または楕円形で、灰白色、周縁部は淡褐色〜褐色となることが多い。病斑の長さは5-10mm程度であるが、激発すると病斑が融合し、葉全体を枯死させる。九州から中国地方にかけて発生していたが、2011年に北海道(道南)のセイヨウチャヒキ(Avena strigosa)でも発生した。病原菌はライグラスには病原性を示すが、ムギ類などには病原性を示さない。


冠さび病(kansabi-byou) Crown rust
病原菌:Puccinia coronata Corda、担子菌
 被害の大きい重要病害。関東以南の比較的温暖な地域での発生が多い。初め黄色の腫れ物状の病斑であるが、やがて長さ1〜2mm、幅0.5mm程度の楕円形病斑となり、表皮が破れて中から黄色〜オレンジ色の夏胞子が現れる。激発すると、葉身全体が黄色い粉を吹いたように見え、やがて枯死する。黒褐色の冬胞子堆も形成する。病原菌はクロウメモドキを中間宿主とし、多数のレースが知られる。


黒斑病(kokuhan-byo) Drechslera leaf spot
病原菌:Drechslera sp.、不完全菌
 主に葉に発生する斑点性の糸状菌病。初め黒褐色の小斑が不規則に形成され、これが拡大して楕円形から長方形の斑点となる。後に病斑表面に黒いかびが密生して、黒斑となる。病斑周囲は黄化し、やがて葉は枯死する。


紋枯病(mongare-byo) Sheath blight
病原菌:Rhizoctonia solani Kühn、担子菌
 地上部全体に発生する糸状菌病。梅雨入り前から地際部で発病し、病斑が葉鞘を伝って上部へ進展する。病斑は周縁部褐色、中心部灰白色の雲形斑となる。発生後期には病斑上に菌核をつくり、これが地面に落ちて翌年の感染源となる。高温高湿条件で多発する。


炭疽病(tanso-byo) Anthracnose
病原菌:Colletotrichum graminicola (Cesati) G.W.Wilson、不完全菌
 梅雨明けから発生する斑点性の糸状菌病。病斑は黄褐色〜橙色、楕円形、大きさ5-30×1-5mmで、後に相互に融合して不定形となる。病斑が古くなると中央部が灰白色になり、そこに剛毛という菌組織が形成され、黒くかびてみえる。剛毛付近にはオレンジ色の粘塊状の胞子が形成され、これが風雨で飛散してまん延する。病原菌はオーチャードグラス、ライグラスなどの菌と同種だが、それぞれ寄生性が分化しているとされる。

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