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有機物施用歴の異なる灰色低地土転換ダイズ畑の窒素収支

[要約]

灰色低地土転換ダイズ圃場における窒素収支はマイナスとなる。4年間の堆肥連用歴のある圃場では、固定由来の窒素集積量が増加するため、窒素収支のマイナス量は対照区より少ない。

[キーワード]

田畑輪換、ダイズ、窒素収支、土壌窒素肥沃度、堆肥投入前歴

[担当]

秋田農技セ農試・生産環境部、作物部、秋田県立大

[代表連絡先]

電話018-881-3303

[区分]

東北農業・基盤技術(土壌肥料)

[分類]

研究・参考

[背景・ねらい]

近年、田畑輪換圃場でのダイズ収量の低下が指摘され、圃場からの窒素持ち出しに伴う土壌窒素肥沃度の低下がその要因と見られている。土壌窒素肥沃度の向上には、積極的な有機物施用が効果的であるが、投入量策定のために必要なダイズ圃場の詳細な窒素収支の測定例は極めて少ない。そこで、寒冷地の灰色低地土転換ダイズ畑における窒素収支を把握し、土壌窒素肥沃度の管理に参考となる知見を得る。

[成果の内容・特徴]

  1. 前歴堆肥区のダイズ乾物重は対照区に比べ多く推移し、最大繁茂期の差は顕著となる。根粒乾物重は開花期以降、前歴堆肥区で大きく増加する(図1)。
  2. 前歴堆肥区では、最大繁茂期まで窒素固定活性を高く維持し、最大繁茂期における固定由来窒素量は、19.4kg/10aと対照区の11.3kg/10aより多い。また、加重平均により求めた最大繁茂期の窒素集積量に占める固定由来窒素の割合は前歴堆肥区、対照区においてそれぞれ73%、64%である(図2)。
  3. 圃場への窒素のインプット(種子としての投入、降下物、根粒による窒素固定の合計)の90%以上を窒素固定が占める。一方、アウトプット(収穫による子実持ち出し、暗渠排水による溶脱、亜酸化窒素[N2O]放出の合計)の90%を収穫子実が占める。暗渠排水による溶脱はアウトプット全体の8〜9%である(図3)。
  4. 転換ダイズ畑における栽培期間中(6月〜11月)の窒素収支は対照区で-9.4kg/10a、前歴堆肥区で-4.9kg/10aとなる。前歴堆肥区では対照区に比べ、収穫子実による持ち出し量は多いものの、窒素固定によるインプットも多いため窒素収支のマイナス量は対照区より少ない。(図3)。

[成果の活用面・留意点]

  1. 本成果は、秋田県農林水産技術センター農業試験場の大型ライシメーター圃場(15m2、灰色低地土)における2008年度の結果である。前歴堆肥区は、2004〜2007年まで4年間、完熟堆肥(3t/10a:3種混合の家畜ふん堆肥)を連用し飼料イネを栽培した。また、 両区とも4年間、10aあたり基肥N, P2O5, K2O 各6kg、各N 2 kgの追肥を2回施用した。2008年度に転換してダイズ(品種:リュウホウ)を両区とも無施肥で栽培し、栽培期間中(6月〜11月)の窒素収支を測定した。
  2. 前歴堆肥区および対照区の表層土壌(0〜10cm)の全窒素は、2004年度には両区とも0.16 %であったが、2008年度栽培前の時点でそれぞれ0.20%、0.15%であり、乾土30℃4週間湛水培養後の可給態窒素は前歴堆肥区13.4mg/100g、対照区8.8mg/100gと異なる。可給態リン酸含量(P2O5/100g)は、前歴堆肥区23.4mg、対照区17.3mgである。
  3. 放出N2Oは、クローズドチャンバー法により週1回程度の頻度で測定した。また、表面流去、脱窒による窒素の損失や積雪期間の溶脱は考慮していない。

[具体的データ]

[その他]

研究課題名
地域有機質資源を活用した持続的農業生産技術の確立
予算区分
県単
研究期間
2008年度
研究担当者
金 和裕、高階史章(秋田県立大)、井上一博、中川進平、佐々木景司、千田 敦、佐藤 孝(秋田県立大)、金田吉弘(秋田県立大)